視覚像、あるいはスマホ画像

 A君はホシホウジャクがホバリングしながら蜜を吸うのを見ながら、自分のホシホウジャクの視覚像がスマホで撮った(素早く動く羽の)ブレた画像によく似ていると感じました。動く被写体をシャープに写すには、高速シャッターで撮る必要があります。なぜなら、シャッターが開いている間に被写体が動くと、その動きがブレになってしまうからです。ホバリングと一口で言っても、カワセミとホシホウジャクではホバリングの速度から被写体の状態まで違いますから、どのようなシャッター速度でどのように撮影するかは随分と知識が必要です。

 スマホが左右に揺れる状態で文字を読もうとすると、文字が左右にぶれて、とても読めません。でも、頭を同じ振れ幅、同じ速度で左右に振りながら文字を読むと、大抵は難なく読め、視野はブレません。というのも、私たち動物は「前庭動眼反射」という機能を持っていて、耳の奥にある前庭や半規管という器官が頭の動きを感知し、瞬時に逆方向に眼球を回転させ、視線のブレを防いでいるからです。

 とはいえ、ホシホウジャクのホバリングの私の視覚像はスマホで撮った画像と同じでブレていて、ホバリングしている翅を正確に見ることができません。となると、高速で動くものがよく見えないように、低速で動くものも動いて見えないことが何となく納得できてしまいます。先日の中秋の名月を撮った画像は静止画像だと誰もが認める筈ですが、被写体の月は地球の衛星として常に動いていて、私たちはその動きの一瞬を撮ったと考えています。

 さて、A君はこんなことを夢想しながら、「刹那滅」、「前後裁断」、さらに、「因縁」、「輪廻転生」、「因果応報」、「諸行無常」といった語彙が知覚像に基づくのか、心象に基づくのか、あるいは概念や言語に基づくのか、わからなくなってしまいました(ニュートンのリンゴの落下は知覚像でも心象でもあり、古典力学で計算可能な概念でもあります)。

*画像はホシホウジャクのホバリング