限界神社、そして廃神社

 廃村、廃寺と並んで、それらより深刻そうなのが廃神社で、廃屋となった神社があちこち目立つ昨今です。

 寺のお坊さんの職業名は「僧侶」ですが、それと同じように「神主」は神社の役職(神職)の名前ではなく、職業名です。「宮司」は神社の代表者で、その神社の責任者の神職です。神社を会社に喩えるなら、神職は社員全般を指し、その中の代表者が宮司です。宮司は神社に一人しかいません。そして、どの神社にも宮司がいます。宮司はその神社が行う祭祀の責任を担い、宗教法人の代表としてだけではなく、神社が行う宗教儀式にも責任を持っています。

 ところで、日本全国には8万社ほどの神社があります。でも、宮司は1万人ほどしかいません。つまり、7万社もの神社には常駐の宮司がおらず、こうした神社では他の神社の宮司が兼務していて、それゆえ、全国に7万社もの無人駅にも似た無人神社があるということになります。日本にある神社のほとんどは小規模なので、神職が一人で、その人は宮司ということになります。

 「不活動」神社は法人格を有する神社で、宗教法人としての活動がなく、不活動宗教法人の状態の神社のことです。宮司が欠員となり、あるいは社殿が荒廃した状態が想定され、村落の人口減少などにより、氏子がほぼ皆無となった神社がその典型例となります。神社本庁平成27年から不活動神社の把握や神社の不活動状態の解消に取り組んでいます。「神社合祀」は神社を合併整理することで,明治初年と明治末年に政府によっておこなわれました。でも、戦後の不活動神社の解散や合併はあくまで民間レベルのものです。

 活動再開が見込めない神社には、法律上、神社の解散、あるいは合併という選択肢があります。ただし、解散は現実的にはなかなかとりえません。関係者にとって、神道そのものの否定につながるからです。すると、残る選択肢は合併ということになります。合併は不活動神社の法人格を他の近隣の活動状態にある神社の法人格に吸収合併させることです。合併は解散に比べれば、祭神をそのまま残すことができ、神社界で現実に実行されてきました。でも、他の合併と同じく、人口が減り、集落がなくなっていく状況では実際の合併は多くの問題を抱えており、日本社会の縮図が神社の解散や合併に見事に集約されているのです。