紅い実をつけるクロガネモチばかりが妙にたくさん植えられているのが湾岸地域で、今はあちこちでその紅い実を見ることができる。ところで、クロガネモチは既述のイチョウ、ハマヒサカキと同じように雌雄異株。赤い実をつけるクロガネモチが雌の木で、その雌の木ばかりが目立つのである。確かに、雄の木を見落としているのかも知れないのだが、どのクロガネモチも雌の木ということになれば、雄の木がないので、そもそも紅い実をつけることができるのかという疑問が出てくる。そして、それはクロガネモチの性比は湾岸地域では一体どうなっているのか、という疑問に繋がる。
クロガネモチ(黒鉄黐)とはモチノキ属の常緑樹で、都市の環境にも耐えることから、公園樹、あるいは街路樹として人気がある。冬に紅い実をつける庭木としては最大級のもので、花の少ない冬を彩る。「雌雄異株」、あるいは「雌雄別株」とは、雌雄が株ごとに完全に分かれている植物で、樹木に多い。
雌雄異株植物では雌株の花に雄株の花粉がついて初めて果実ができる。では、雌株だけ(あるいは雄株だけ)が植裁されている場合はどうなるのか。
(1)種子のDNAと母樹のDNAと周囲の同じ樹種の木のDNAを調べることによって、種子の父親(花粉親)を判定できる。種子の花粉親がわかると、花粉親と母樹との距離、つまり花粉がどのくらい遠くの木から運ばれてきたかがわかる。樫の木の一種では、数百メートルも離れた樹木からも花粉が運ばれることが知られている。モチノキ属ではこのような調査はまだされていないが、クロガネモチでも、随分離れている雄株から花粉が運ばれていると考えられる。
(2)モチノキ属の結実についてはダーウインも注目していたようである。セイヨウヒイラギの場合、人工授粉すれば結実率が上がるケースもあるが、雌花に袋かけをしても少数の結実が見られること、種子を全く含まないのに紅く熟す実もあること、また人工授粉に頼らずともかなりの実をつける個体があることが報告されている。クロガネモチと同じ属の植物ヤバネヒイラギモチも、受粉しなくても結実するという報告があり、アメリカヒイラギモチでは、人工授粉をしてもしなくても結実率に大きな変化が見られなかったという観察事実から、結実率を左右するのは花粉の量よりは、果実に回すことのできる資源量の方だと推測されている。
以上のことから、クロガネモチを含むモチノキ属では、結実そのものに花粉が必ずしも必要ないことになりそうである。となれば、雄の木の役割は何であり、雌雄の割合(性比)など無意味になり、終には雌雄異株ではないことになってしまう。
人が好む紅い実をつけるクロガネモチの雌の木ばかりを植えるのは人の勝手な事情であり、雌雄異株への脅威は局所的、限定的でしかなく、自然の中ではクロガネモチの雄の木は立派に役割を果していると考えたいのだが…