生きた化石

 「生きた化石(living fossil)」は「生きた死者」によく似ているにもかかわらず、誰も矛盾した表現だとは思わない。それどころか、気の利いた表現だと思われている。さらに、「生きた」は「生きている」であり、化石も死者もかつて生きたものとなれば、「生きた」は無用な謂い回しになってしまう。そんな文句は棚上げし、既述のイチョウと並んで「生きた化石」と言われているメタセコイアの黄葉も見事である。「生きた化石」が実際に何を指すかと言えば、「太古の地質時代に生きていた祖先種の形状を色濃く残している生物」のこと。地層の中の化石と同じ形状で今でも生きているため、「生きている(生きた)化石」と呼ばれている。「living fossil」という用語はダーウィンが『種の起源』の中で、カモノハシ、ハイギョに言及した際に使われた。

 イチョウ中生代から新生代にかけて繁栄した針葉樹。約6500万年前、隕石の衝突による急激な寒冷化をきっかけに多くの生物種が絶滅した。その後の数度にわたる氷河期を経て、イチョウの近縁種は絶滅し、イチョウは中国南東部だけに奇跡的に生き残った。日本のイチョウ朝鮮半島を経緯して日本へ渡来したとされる。その時期については飛鳥時代、あるいは室町時代とする説がある。

 メタセコイアは高さが30~35mにも達するスギ科の落葉高木。「アケボノスギ」とも呼ばれ、日本の化石学者の三木茂が1941年にスギ科の新属として「メタセコイア属」をつくった。当時は絶滅したと考えられていたが、1946年に中国四川省で現生種が発見された。

 メタセコイアの並木は日本各地にあり、いずれもその黄葉が美しい。湾岸地域にも多く植えられ、大木に育ちつつある(画像)。

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