「ホトトギス」と聞いて、鳥と植物のいずれを思い浮かべるだろうか。大抵の人は鳥の方で、信長、秀吉、家康を比較した歌を思い出す歴史好きも相当いる筈である。植物のホトトギスは知らない人が多い野草の一つで、名前は花びらにある紫色の斑紋が鳥のホトトギスの胸の斑紋と似ていることに由来するらしい。鳥のホトトギスは横縞模様だが、野草の斑紋には横縞模様から大小の斑点まで様々である。
ホトトギス属の植物は19種知られており、いずれも東アジアに生育。日本には12種分布している。この分布の仕方から、日本はホトトギス属の分化の中心地と言える。ホトトギスはユリ科の植物で、園芸種としても人気があり、白〜紫の花弁に濃い紫の小さい斑点がつく(画像は二種類の園芸種)。ホトトギスの開花時期は8月〜10月頃で、紫色だけでなく、斑点のない真っ白な花や黄色に赤紫の斑点がつく品種もある。
ところで、俳句の季語となれば、「雪月花」は冬秋春を代表する大きな季語。これに夏の「ほととぎす」(鳥)を加えて四季となる。それだけに異字も多様で、「時鳥、子規、不如帰、杜鵑鳥」などはよく知られているが、さらに「沓手鳥、田長鳥、早苗鳥」等々。口の中が鮮紅色なので「鳴いて血を吐く」(正岡子規の俳号の由来)と言われ、死出に通ずることから冥途の鳥と忌まれることもある。ホトトギスは夏の渡り鳥で、雪月花と異なり、他の季節にまたがることはない。「杜鵑鳥、杜鵑花、杜鵑草」と音には反映されない漢字(鳥、花、草)をつけて使い分けているが、何とも苦しい気がするのは私だけではあるまい。植物の「ホトトギス」は秋の季語。
*『ホトトギス』は明治30年(1897)松山で創刊。正岡子規主宰。34歳の若さで亡くなった子規は結核を患い、喀血した自分を「鳴いて血を吐くホトトギス」に重ね、ホトトギスの表記である『子規』を俳号とした。また、『不如帰』は徳富蘆花の小説。明治31~32年(1898~1899)発表。