人気絶頂と評されるラーメン店の前には長い行列ができる。そして、医療崩壊寸前と案じられる病院に患者が殺到し、長い行列ができる。ラーメン店も病院も設備や人手を増やし、対応しようとする。その後、ラーメンの味が飽きられ、流行がおさまると、増やした設備や人手は不要となり、スリム化される。
人の欲望は際限ないだけでなく、偏っていて利己的であり、勝手極まりなく、味も命も区別することなく扱われ、人の欲望を合理的に処理するために施設、設備、人手等はニーズに合わせて増減するのが当たり前と考えられてきた。
さて、今どこでも言われている医療崩壊はむしろ合理的に行われてきた医療の当然の結果でもある。地震に備えて、様々な施設、設備、人員を常に用意しておくこと、戦争に備えていつも軍事演習を繰り返し、絶え間なく戦力を増強すること、このような準備をする国家はこれまで多くのものを犠牲にしてきた。感染症の蔓延による医療崩壊は人の合理的な判断の当然の結果であり、医療崩壊を起こさない医療とは絶え間ない軍備増強に似ている。
そんな呑気な心配をよそに、クラスター潰しは必死に行われている。台東区の永寿総合病院の大規模な院内感染は、初期にクラスターとなっていた都内の屋形船と関連している可能性があるらしい。厚生労働省のクラスター対策班の分析によれば、永寿総合病院の入院患者の中には、1月に屋形船に乗っていた感染者とフランスから帰国した感染者がいたことがわかり、そのいずれかから医療スタッフに感染した可能性があるというのだ。そして、その医療スタッフが無症状か非常に軽症だったため、入院患者らに感染を拡大させた可能性があり、さらに複数の病院で診察をする医師が他の病院に感染を広げた可能性があるとしている。だが、昨日の東京都の感染者の多くはリンクが不明であり、次第に大流行の兆しを見せ出している。地方では東京に出張した人、東京から帰省した人からも感染者が出てきた。世界を見渡すなら、事態は日本より遥かに大変で、感染者も死者もまだ暫くは増え続けるだろう。
緊急事態宣言が出るのは直ぐのことだろうが、人の活動を制限し、社会的距離を保つことがより強く求められることになる。つまるところは、私たちの欲望のさらなる制限ということになる。外から押し付けられる欲望のコントロールは意外に厄介で、私たち自身が上手に欲望と付き合わなければならない。