「感染爆発重大局面」

 レトリックに敏感な小池都知事の会見でのキーワードが「感染爆発(オーバーシュート)重大局面」。東京都の今の状況をこのように呼び、都民に訴えた。その訴えは、このままでは「In a nutshell, the current situation is a serious phase of an infection explosion.」になり、小中生にわかりにくい「局面」は「a critical situation, a crucial phase」とでもなる。

 呼びかけた表現がわかりにくい理由を考えてみよう。

 「どれだけのデータがあれば、感染爆発が起こり出すと判断できるか」は誰にも正確にわからない。中国やヨーロッパのデータが整理されれば、爆発の兆候をつかみ、始まりがわかるようになるのだろうが、今は困難で、その辺の信頼できる研究論文があるかどうかも不明。そんな状況で、感染者が急速に増え始め、医療崩壊につながるような状況にある確率が高いことを「感染爆発重大局面」と呼んだと思われる。「緊急事態」より、一歩踏み込み、現状を訴えたのだが、「重大局面とはどんな局面か」と問われると、直感的で、情緒的でさえあり、「感染爆発の危険が高い、その兆候が見られる」状態と言うのが答え。

 局面は「事態、状態、状況、場面」であり、大まかに流行を指しているのだが、感染爆発が始まったのか、感染爆発が始まる兆候があるのかは、地震の兆候、地震の始まりに似ていて、微妙。火山爆発、地震、台風と比べると、どれだけ持続するのか、どの範囲まで広がるのか、流行の時空の拡がりが自然災害と時にダブり、時に異なる。モデルの条件やパラメーターの値を少し変えると爆発が始まるという状態、値の取り方で感染爆発が起こるシミュレーションができる状態なのだが、それを日常語で表現するのは意外に厄介である。

 次はちぐはぐな事柄について述べてみたい。

 「感染爆発重大局面」という宣言をしながら、人々の行動に関しては相変わらず「自粛を要請する」だけで、何ともチグハグ。リスクコミュニケーションとして全く不適切。メルケル首相やジョンソン首相が自分の言葉で具体的に国民に語り、幾つもの行動を禁止しているのに対し、重大局面にありながら、自粛を要請するだけ。選挙演説の半分ほどの真剣さで国民に訴えるなら、「爆発」も「重大」もその本来の意味を伝えることができ、都民はより従順な行動をとるのではないか。「自粛要請」を叫ぶのは自粛してほしい。