3月19日専門家会議が「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」を公表(全文は厚労省のホームページ参照)。日本国内の感染状況について、引き続き持ちこたえているが、一部の地域では感染拡大が見られ、今後感染源の分からない患者数が継続的に増加すると、爆発的な感染拡大を伴う大規模流行につながりかねないと懸念を表明。また、感染拡大防止の効果を最大限にするため、これまでの方針を続けていく必要があり、「クラスター(集団)の早期発見・早期対応」、「患者の早期診断・重症者への集中治療の充実と医療提供体制の確保」、「市民の行動変容」という三本柱の基本戦略を維持し、必要に応じて強化すべきと主張。
この分析・提言を理解するための鍵になるのが感染症の流行モデルであり、そこでの最重要の変数は基本再生産数(R0)で、感染した患者が新たに何人に感染させるかという数。R0<1になれば、流行は終息に向かう。ワクチン、薬、手洗いや人込みを避けるなどの努力でR0を引き下げることができる。人口の割合eがワクチンによって免疫化されると、部分的に免疫化された集団の再生産数(実効再生産数)は (1-e)R0と減る。(1-e)R0が実効再生産数Rで、現在国の専門家会議が呼び掛けている感染症対策はR<1を目指すものである(モデルや基本概念は稲葉寿「基本再生産数・タイプ別再生産数・状態別再生産数」で検索してほしい)。
ワクチンや薬によってウイルスを遮断できないと、物理的に人と人の接触を遮断し、隔離することしか手はなくなる。これが日本の現状である。兎に角、医学的な遮断、物理的な遮断のいずれも感染症対策の基本である。100%ワクチンが接種されれば、実効再生産数R(=(1-e)R0)は0になり、R<1。人が孤立し、隔離されればワクチンで免疫化されたのと同じ効果で、e=1となって、やはりR<1。eは医学的には免疫化の、物理的には孤立化の指標で、共に同じ効果を発揮する。社会的な規制や自粛は部分的な孤立化で、経済と医療のバランスによって孤立化の強度を(私たち自身で政策として)決定しなければならない。
これらのことを了解した上で昨日の分析・提言を読むとわかりやすい。文書の一部をつまみ食いしないで報道してほしい。今回は控えめながら日本の戦略が垣間見えている。モグラ叩きのように感染者とクラスターを見つけて叩くことを丹念に続けるためにはクラスター対策班に警察OBや自衛隊OBを入れて接触者を巧みに探すのも一つの手だろう。