流行のピークをなだらかにすることの意味

 アメリカで最初の感染者が見つかったのは1月21日。3月10日に感染者が1000人を超えた頃から急激に増加。2週間前は日本と感染者数がほとんど変わらなかったのに、今では全米の感染者数は13万6千人を越え、ニューヨーク市の死者は678名。専門家会議は既に3月19日に「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」を出し、強い危機感を述べています。 

「今後、地域において、感染源(リンク)が分からない患者数が継続的に増加し、こうした地域が全国に拡大すれば、どこかの地域を発端として、爆発的な感染拡大を伴う大規模流行につながりかねないと考えています」

「既に地域によっては軽症者や回復後の観察期間にある患者等によって指定感染症病床が圧迫されてきていること、死亡者数が増加傾向にある状況も鑑みると、専門家会議としては、欧州で起きているような爆発的な感染拡大の可能性や、それに伴う地域の医療提供体制が受けるであろう影響の深刻さについても、十分考慮しておかなければならないと考えています」

 専門家会議によると、感染源を追えないクラスター(患者集団)が発生し、増えているのはきわめて不気味な兆候。感染が密かに市中に拡がり、突然爆発的に患者がオーバーシュートすると、医療提供体制に過剰な負荷がかかり、適切な医療が提供できなくなると専門家会議は訴え、こうした事態が発生すると、一定期間のロックダウンに追い込まれることになると続けたのです。

 現時点では特別な治療薬はありません。では、インフルエンザのように暖かくなれば終息するのでしょうか。残念ながらその保証はありません。今できることは、発症者数のピークを後ろにずらし、医療崩壊を起こさないようにカーブをなだらかにしていくしかありません。穏やかなピークであればあるほどいいのですが、それは流行の時間が長く続くということであり、少なくとも夏以降になると予想でき、長い忍耐が不可欠なのです。

 この最後の言明の意味を具体的に考えてみましょう。子供たちへの図形の問題として、「底辺が10、高さが10万の二等辺三角形と同じ面積で、高さが1,000の二等辺三角形の底辺の長さを求めなさい」が出されると、答えは「この二等辺三角形の底辺は1,000」になります。人口が一定で、感染者数が変わらないとすれば、オーバーシュートして10万人の感染者を一挙に出して10日で流行が終わることを防ぎ、流行を緩やかにするために1,000人のピークにするなら、終焉まで何と1,000日かかることになります。「穏やか」な流行とは「長く続く」流行でもあるのです。こうなると、ワクチンや薬がいかに有益であるかが実感でき、それらを待ち焦がれる気持ちがわかるというものです。