秋の実:ブドウとゴボウ

 ブドウ科のエビヅルの古名は「エビカズラ」(葡萄蔓)。各地の野原や低い里山の林で普通に見かけ、秋にはブドウと同じで少し小さい果実の房をつける。果実は熟すと甘くなり、生で食べられ、果実酒にできる。
 エビヅルは、秋にブドウのような黒い液果ができ、それをつぶすと出る薄紫色がエビ色だった。エビヅルは日本の野生ブドウの一つ。ノブドウ、エビヅル、ヤマブドウは日本で自生するブドウ科の植物だが、今のブドウとは異なる。今のブドウは西アジア原産と北アメリカ原産の二種類があり、日本のブドウの大半はこの二種類を交配させたもの。当初は西アジア原産のものが欧州や中国に広まり、日本には中国を経由して伝わった。その後、北アメリカ原産のブドウが導入された。
 古事記にはイザナギノミコトが黄泉の国から逃げ帰る時、追ってきた鬼にエビカズラを投げつけて、鬼がその実を食べている間に難を逃れたとある。ノブドウはいたるところに繁茂し、エビヅルもノブドウほど多くはないが、散歩道に姿を現す。ヤマブドウノブドウやエビヅルほど目立たず、山に入らないと見る機会は少ない。だが、いずれも秋になると急に存在感の増す植物である。画像は昨年近くの公園で見たエビヅルで、残念ながら今年はオリンピックのための整備工事で立入禁止となっている。

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 ヨウシュヤマゴボウ(洋種山牛蒡)とは何とも野暮な名前。ヤマゴボウ科の多年草で、別名はアメリヤマゴボウ。ヨウシュ(洋種)とは読んで字のごとくで、北米原産の帰化植物、日本に入ってきたのは明治元年ヤマゴボウは我が国に古くから自生する野草で、根がゴボウに似ているのでこの名が付けられた。そのヤマゴボウに似ていて、海外から入ってきたヤマゴボウという意味でヨウシュヤマゴボウとなったようである。高さは2m前後に達し、茎は無毛で赤く、根は太く長い。葉は大きく、秋になると紅葉する。6月から9月にかけて花穂をつけ、夏に扁平な果実をつけた後に初秋に黒く熟す。画像のような熟した果実は柔らかく、潰すと赤紫色の果汁が出る。この果汁は染料になり、衣服や皮膚に付くとなかなか落ちない。黒く熟した実をつぶすと、赤紫の汁が出る。昔はこれを赤インクにしたらしい。
 子供の頃からあちこちでヨウシュヤマゴボウを目にしていたのだが、雑草にしては目立つという程度の関心しかなく、そのせいか実を食べた経験はなかった。偶然にも街の整備された歩道の並木の下にそれを見つけた。元気に実をつけるヨウシュヤマゴボウは眼を引く存在で、つい見入ってしまった。ヨウシュヤマゴボウは有毒で、果実の中の種子は毒性が高い。ブルーベリーと間違えて食べると大変で、要注意。 誤食すると、約2時間後に強い嘔吐や下痢が起こり、摂取量が多い場合はさらに中枢神経麻痺から痙攣や意識障害が生じ、最悪の場合には呼吸障害や心臓麻痺を引き起こし、死に至る。妙に惹きつけられる植物である。

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