ニシキギの翼

 スズランノキ、ニッサボクと並んでニシキギは世界三大紅葉樹の一つとされ、日本の庭の名脇役となってきました。紅葉の美しさから「錦木」と名づけられましたが、ニシキギには枝の節間にコルク質の「翼」があり、これを刃物や矢になぞらえて、「剃刀の木」、「鬼の矢柄」などとも呼ばれてきました。

 ニシキギの翼のコルク層は完全にコルクなので、光合成はできません。では、コルク層の発達は何に対する適応なのでしょうか。生存にとって不利でも有利でもない、いわゆる中立変異なのかも知れません。鑑賞価値が高いニシキギは人気があり、人為的に繁殖を助けられ、広く分布するようになったとも考えられます。マユミとニシキギはよく似ていて、翼があるかないかの違いしかなく、葉や実だけを見てもほぼ同じです。ニシキギも幹の部分には翼がありません。となると、今のところ翼の存在理由は謎のままです。

ニシキギとマユミにはキバラヘリカメムシが集まる(画像)。

 冬になり、落葉すると、ニシキギはこの翼が目立ちます(画像)。ニシキギのコルク層はワインの瓶の蓋に使うコルク樫のコルクと同じです。枝に板状の翼(ヨク)が張り出すのがニシキギの特徴で、普通ならば茎の周りに均一な厚さでできるコルク層が、茎を挟んで互いに反対の二方向にだけ著しく発達したもので、その向きは節ごとに直角に変わります(画像)。翼のできないものは品種として区別され、コマユミと呼ばれています。

*分子進化の中立説(Neutral theory of molecular evolution)は、分子レベルでの遺伝子の変化の大部分は自然淘汰に対して有利でも不利でもなく、中立的で、突然変異と遺伝的浮動が進化の主因とする説で、「中立進化説」とも呼ばれる。木村資生 (きむらもとお) によって1960年代から1970年代に発表された。また、太田朋子は木村と共同で中立進化説の基礎固めを行い、「ほぼ中立」の説を出した。木村はかつてノーベル賞の有力候補だった。

キバラヘリカメムシ

冬の翼