ニシキギの枝の翼

 ニシキギは古い枝の周囲にコルク質の風変わりな「翼」ができる(画像)。この翼を刃物になぞらえ「カミソリノキ」などの別名がある。冬になり、落葉すると、ニシキギはこの翼が目立つ。ニシキギのコルク層はワインの瓶の蓋に使うコルク樫のコルクと同じである。

 枝に板状の翼(ヨク)が張り出すのがニシキギの特徴で、普通ならば茎の周りに均一な厚さでできるコルク層が、茎を挟んで互いに反対の二方向にだけ著しく発達したもので、その向きは節ごとに直角に変わる。翼のできないものは品種として区別されてコマユミとよばれ、野生ではこれの方が多い。また、ニシキギの中で見比べても、コルク層の著しく発達するものから、それほどでもないものまで変異が見られる。

 ところで、ニシキギの翼は生育や繁殖には全く無関係というのが現在の定説。ニシキギのコルク層は完全にコルクであって、光合成の役には立たない。コルク層の発達が生存と繁殖にとって不利でも有利でもなかったため、いわゆる「中立的変異」として集団の中で振るまい、たまたま蓄積したのがニシキギではないのか。さらに、鑑賞価値が大変高いため、人為的に繁殖を助けられたこともあり、世の中に広く分布するようになったのだろう。生物の進化を有利、不利の自然選択説で考え過ぎない方がよい一例なのかも知れない。

*中立進化説(Neutral theory of molecular evolution)は、分子レベルでの遺伝子の変化の大部分は自然淘汰に対して有利でも不利でもなく、中立的で、突然変異と遺伝的浮動が進化の主因とする説で、「分子進化の中立説」と呼ばれる。木村資生 (きむらもとお) によって1960年代から1970年代に発表された。また、太田朋子は木村と共同で中立進化説の基礎固めを行い、「ほぼ中立」の説を出した。木村はかつてノーベル賞の有力候補だった。

f:id:huukyou:20220201051018j:plain

f:id:huukyou:20220201051037j:plain

f:id:huukyou:20220201051053j:plain