クロコスミアの花言葉は「楽しい思い出」。そのせいではないが、クロコスミアは私の子供の頃の夏の思い出の一つ。子供の頃、「クロコスミア」という名前など知る由もなく、畑の端で咲いていた赤い花がいつの間にか無名のまま、半ば物化した記憶として今も残っている。クロコスミアは夏の暑い日も大雨の日もいつも平然と咲いていた。田圃の中のあぜ道などでよく見かけていたのだが、それを何と呼んでいたのか全く記憶にないのである。祖父母が何と呼んでいたのか、すっかり抜け落ちている。でも、形や色の花姿はしっかり脳裏に焼き付いている。考えてみれば、子供の頃の植物など、その大半は名無しの権兵衛。今の湾岸地域でクロコスミアを見ると、子供時代の夏が蘇ってくる(画像)。
クロコスミアはヒメヒオウギズイセン(姫檜扇水仙)の名前で古くから栽培されてきた。細長い剣状の葉が群生し、夏に色鮮やかな花が穂になって咲く。南アフリカ産で、世界中で野生化している。クロコスミアが日本へやってきたのは明治時代中期。以降は「ヒメヒオウギスイセン」という名前で普及していった。
今もクロコスミアが私の子供の頃と同じように故郷で見ることができるか知る由もないが、元気で花をつけていてほしい。今住む湾岸地域には確かに生息し、子供の頃の夏の思い出の引き金になっている。