「人間とは何か」と「これは誰か」、「色とは何か」と「これは何色か」の問いの違いに似て、「植物とは何か」と「これは何という植物か」は違う問いです。その違いは「Xとは何か」と「これは何か」の違いであり、Xという概念が何かを問うことと、「これ」という指示代名詞が指すものは何かの違いでもあります。そして、素人の私が植物の花を経験的に知ることに拘泥するのは、その蓄積によって「植物とは何か」に答えたいからです。そのほんの一例がヒペリカムの花たちなのです。
ヒペリカム(Hypericum)はオトギリソウ科オトギリソウ属の学名ですが、中央アジアから地中海沿岸を中心に世界中に450種ほども分布しています。園芸植物として栽培されているのは低木で、湾岸地域ではその仲間のキンシバイとビヨウヤナギの花が今一斉に咲いています。いずれも花色は黄色です。
ビヨウヤナギは約300年前に中国から渡来した木で、5~7月に直径5センチ程度の花を枝先に数個ずつ咲かせます。枝先がやや垂れ下がる樹形で、葉がヤナギに似ているのでビヨウヤナギと呼ばれますが、ヤナギの仲間ではありません。中国では「金糸桃」と呼ばれ、「未央柳」という漢字は日本でつけられました。黄色の花が上向きに咲き、多数の雄しべが突き出るのが特徴です。
キンシバイの園芸種の一つヒペリカム・カリシナム(西洋金糸梅)に似た種がコボウズオトギリ(小坊主弟切)。コボウズオトギリは最近実の色の鮮やかな改良品種が出回るようになっています。
キンシバイの樹高は約1m。有明アリーナの周りはその黄色の花がほぼ満開です。垂れた枝の先にうつむき加減に花を咲かせます。原産地は中国で、江戸時代に渡来し、観賞用として栽培されてきました。「金糸梅」の名前は、おしべが金色の糸の束のように見え、花が梅に似ていることに由来しています。
さて、セイヨウオトギリ(Hypericum perforatum)は黄色い花を咲かせる根茎性の多年草で、ヨーロッパに自生し、後にアメリカへも伝播し、野生化しています。
*日本のオトギリソウ(ショウレンギョウ、Hypericum erectum )、セイヨウオトギリ(セント・ジョーンズ・ワート)はそれぞれオトギリソウ科の1種で、別物。セイヨウオトギリはセイヨウオトギリソウとも呼ばれている。