2月初めの少しだけミクロな世界

 「ルリカラクサ(瑠璃唐草)」、あるいは「オオイヌノフグリ(大犬の陰嚢)」は同じ植物を指す名前としては、とても落差のある名前です。瑠璃色はラピスラズリのような紫の入った鮮やかな青色で、唐草は中国からの帰化植物のことですから、画像の花にピッタリなのですが、本名は何とオオイヌノフグリ。明治に入り、イヌノフグリの近縁のオオイヌノフグリが日本に帰化し、在来種のイヌノフグリは駆逐され、今では絶滅危惧種です。イヌノフグリオオイヌノフグリよりさらに小さく地味な花で、3~5ミリほどです。そのため、春の訪れを告げてくれるのは帰化したオオイヌノフグリの方です(イヌノフグリの実の形が犬の陰嚢に似ているため、牧野富太郎命名)。

 オオイヌノフグリのミニチュアのような絶滅危惧II類のイヌノフグリを見つけたと喜んだのですが、調べてみると、その正体はフラサバソウ。フラサバソウはオオバコ科クワガタソウ属の越年草。ヨーロッパ原産で、別名「ツタバイヌノフグリ」。「フラサバ」という名前は明治時代に日本の植物を研究したフランチェットとサバチェルの二人の名前からつけられました。オオイヌノフグリと同じ仲間で、全体に柔毛があり、花は青色の4~5mm程で、目を凝らさないとなかなかわかりません。

 オオイヌノフグリと同じように春によく見るのがホトケノザで、その葉の形が仏様の台座のように見えるというのが名前の由来。ホトケノザといえば春の七草の一つとして有名ですが、七草の「ホトケノザ」は同じ名前の別の植物で、コオニタビラコを指します。

 ヒメオドリコソウはヨーロッパが原産で、明治時代の中頃に渡来し、いまでは各地に広がっています。同じオドリコソウ属にオドリコソウ(踊子草)がありますが、こちらは在来種。このオドリコソウによく似ていて、小振りなので「姫」がつけられました。ヒメオドリコソウは極めて繁殖力が強く、空き地や土手などいろいろな場所で群落を作っています。

 オオイヌノフグリホトケノザは共に似たサイズの小ささで、私たちの日常世界の中では小さな、少しだけミクロな、ミニチュア世界の住人です。ですから、少しだけ非日常の世界の住人とも言えます。イヌノフグリヒメオドリコソウはさらに少しだけ小さなミニチュア世界の、さらに少しだけミクロな世界の住人です。私たちは本物のミクロな世界を直接見ることはできませんが、少しだけミクロな世界をオオイヌノフグリホトケノザを通じて知ることができます。それはほんの僅かなサイズの違いだけに過ぎませんが、それでもウクライナミャンマーで起きていることを暫し忘れることができる世界でもあります。

オオイヌノフグリ

オオイヌノフグリとフラサバソウ

ホトケノザ

ヒメオドリコソウ