オニグモ:冥界の蜘蛛

 今年の湾岸地域はジョロウグモが多く、オニグモも見つけたと既に記しました。ジョロウグモに比べると、オニグモは派手ではないのですが、凄みのある姿恰好で、存在感があります。大きさも胴体はジョロウグモに匹敵し、迫力十分です。普通より大きいもの、赤い色や屈強な姿のものに「オニ」、小さいものや弱いものに「ヒメ」をつけるのが日本語で、「オニヤンマ」や「ヒメリンゴ」がその例です。

 さて、そのオニグモから連想されるのは能や歌舞伎の「土蜘蛛」。能の作品は『平家物語』の源頼光の土蜘蛛退治の話が原作。「大江山」や「羅生門」と同系列の風流能で、その派手なアクションは大学生の私を虜にしました。土蜘蛛は千筋の糸を次から次へと繰り出し、糸が舞台一面を覆い隠し、劇的効果抜群です。江戸時代末期に糸はより細く、長くなり、舞台は一層魅力的になりました。歌舞伎の演目の筋も単純。土蜘蛛は頼光に妖術をかけ、病に陥れますが、頼光は脇差の膝丸を抜いて撃退し、さらに部下に命じて追いかけさせ、土蜘蛛を退治するというもの。河竹黙阿弥作で、1881(明治14)年の新富座が初演。

 「土蜘蛛」は皇室に従わない豪族を指す言葉でもあります。『古事記』や『日本書紀』に頻繁に登場し、中でも大和国大和葛城山の土蜘蛛が知られ、神武天皇によって討伐されました。土蜘蛛の語源として「土隠(つちごもり)」とする説があり、彼らが穴倉の住居に住む人々であることを意味していて、蜘蛛の妖怪という伝説は後世の創作であることが窺えます。

 能の「土蜘蛛」は平安時代源頼光伝説に登場する京都の妖怪。その容姿は鬼の顔に虎の胴体、蜘蛛の手足を持つとされています。この源頼光伝説から始まる土蜘蛛は冥界の怨霊として京都の各所に登場します。

*画像はオニグモ