偏執的紫陽花考(3)

 私が他の人たちと同じように愛でるアジサイの花は生物学的には「装飾花」と呼ばれる「がく」の変形。アジサイの進化的な企みにすっかり騙されているという訳だが、他の昆虫も人間と同様に騙されているのだろうか。生殖器官である花は生き物を騙す装置であり、私たちだけでなく、昆虫などの生き物を騙そうと巧妙に進化してきた。そこで今一度、私たちが見ているアジサイの花を見直してみよう。

 花には四つの異なるパーツがある。花びら、がく、めしべ、そして、おしべ。すると、アジサイの花は次のような種類に分けられる。

装飾花:一般には花びらと看做されている部分で、萼(がく)が発達したもの。

中性花:装飾花の中心に現れる蕊群。ただし機能が退化しており、実はできない(らしい)。

両性花:装飾花に囲まれた大量の粒々の部分。カタツムリの目のように伸びているのがおしべで、その付け根にめしべがあり、小さな実ができる。

 アジサイの花の中にさらに小さい花があるように見えているのが中性花で、この小さな花がアジサイの本来の花の一つで、 花びらのように見える周りの大きな花は実はがくである。

 いわゆる「アジサイ」、あるいは「ホンアジサイ」は一般的によく見られる紫陽花で、萼(つまり、装飾花)だけが多数集合し、手毬のように見える種類で、これは「ガクアジサイ」から生まれたもの。アジサイに次いでよく見られるのがガクアジサイで、中心部にある小さな珊瑚状のものが本来の花(両性花)で、その周辺部に咲く小花のように見えるものは装飾花(つまり、がく)。セイヨウアジサイは日本原産のものをヨーロッパで改良した品種。

 今咲いているアヤメに似て、アジサイの企みはとても直接的でわかりやすいのだが、さらなる園芸種になるとそれがわかりにくくなってくる。例えば、アナベルアジサイよりずっと節度ある花姿で、多くの人を惹きつける。花の種類によって進化してきたアジサイに人の企みが加わり、人はアジサイの魅力を多様化し、その結果、わかりにくいものにしてしまったようである。

*画像は三つの種類の花、墨田の花火、アナベルカシワバアジサイヤマアジサイである。

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