連休に読みたい新型コロナウイルスに関する基本的な文献

 「Stay home!」と叫ばれる連休に何をしたらいいのか。家で過ごす伝統的なやり方となれば、読書だろう。何を読むか。カミュの『ペスト』でも、ボッカチオの『デカメロン』でもいいのだが、今の流行を知るためにはいずれも役立たずだろう。そこで、これまで私が挙げてきた文献や資料の一部を以下に書き出してみる。すると、通常の医学、医療の文献とは少々異なる内容であることがわかるだろう。

 今の日本の対策の基本にある数理モデルの原型は次の二つの学術論文で知ることができる。数学が苦手な人でも議論の展開はわかるだろうし、微分方程式のシステムを使った予測モデルがどのようなものか直感できる筈である。

西浦博、稲葉寿「感染症流行の予測:感染症数理モデルにおける定量的課題」、『統計数理』第5巻2号、461-80、2006

稲葉寿「基本再生産数・タイプ別再生産数・状態別再生産数 The basic reproduction number, the type-reproduction number and the state-reproduction number」、『数理解析研究所講究録』第1653巻、4-9、2009

(いずれの文献も著者と論文タイトルで検索すれば、簡単に読める。)

 次の文献は中高校生にもわかる丁寧なマニュアルであり、新型コロナウイルスについての適切な知識を手に入れることができる。

矢原徹一QOU代表理事(九大)の講義

https://open-univ.org/wp-content/uploads/2020/03/新型コロナウイルス予防の科学.pdf

 その後で、3月末までの日本の対策の要約が東北大野押谷仁教授によってなされている。「COVID-19への対策の概念」で、このタイトルで検索すれば、読むことができる。

 また、「新型コロナウイルス感染拡大防止の緊急声明」として生物化学学会連合から出されているが、8割の接触削減の日経の記事を再読しておこう。北大の西浦教授の計算では、接触を8割減らさないと感染は収まらないという予測をしている。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57610560T00C20A4MM0000/
また、東大の大橋准教授は、無症状感染者が多くいる中で、全ての人が自身が感染しているという想定で行動量を大幅に減らす必要があると訴えている。大橋准教授は「新型コロナウイルス感染症の 流行予測 正しく理解し、正しく怖がり、 適切な行動をとるために」で、数理モデルの易しい説明と、丁寧な予測をしている。
http://www.bs.s.u-tokyo.ac.jp/content/files/200404_SEIRmodelPrediction.pdf.pdf

 大橋准教授は、患者一人が平均して2.5にうつすと仮定し、感染状況を試算した。試算によると、人口10万人の都市に患者が一人入った場合、1日当たりの患者は59日目に50人に増加する。その時点で接触を8割減らす対策を始めると、30日間で患者数はおおむね半減するが、対策をやめて通常の接触状況に戻ると、15日間で再び50人に増える。一方、接触8割減の対策を30日間取った後、接触7割減を続ければ、感染者を減らし続けることができるという。

 私たちの行動変容によって数理モデルの予測が大きく変わることを上記の文献を眺めることで知ることができれば、連休の私たちの行動変容、接触8割削減の理屈が何となくわかるのではないか。科学における数理モデルの中に私たち自身が組み込まれ、私たちの行動が将来を大きく左右し、じっとしていることに大きな意義があることがわかるのではないだろうか。