専門家会議は「これまで集団感染が確認された場に共通するのは、①換気の悪い密閉空間であった、②多くの人が密集していた、③近距離(互いに手を伸ばしたら届く距離)での会話や発声が行われたという 3 つの条件が同時に重なった場です。」と述べています。これを丁寧に読み、さらにその他の文書の内容も併せると、これら3つの条件が何時でも成り立つと必ず集団感染が起こると主張しているのではないことがわかります。これを作成した専門家たちは皆実証的な科学者ですから、経験的なデータをもとに導き出された条件であることは言うまでもありません。つまり、3条件が集団感染の必要十分条件などではなく、単に集団感染が起きるのは3つの条件が重なった場合が多いという経験的な事実を述べているに過ぎません。色の3原色の説明図のように3つの円が重なった部分だけが感染する部分と言っているのではありません。3つの条件が重ならなくても、あるいは3つとも成り立たなくても、感染は起きますし、ひょっとすると集団感染さえ可能なのです。兎に角、3条件はこれまで得られたデータに基づく、経験的な知見であり、集団感染の必要十分条件ではないのです。
ところで、上に登場する「集団」感染は個別の感染の集まりでしかありません。生物集団や個体群、動物社会や人間の共同体と違って集団感染の集団は特定の構造や組織をもっている訳ではありません。同じ場所でほぼ同時に感染が複数起こることを集団感染と呼ぶだけのことで、実際に起きるのは個別の感染です。個々の感染が一人の人から起こり、その人が何人かに違う場所、違う時間に何度も感染させるとクラスターが発生することになります。日本の対策の特徴はクラスター対策(班)にあり、彼らの目的はクラスターを見つけ、それを潰し、感染が伝播拡大することを防ぐことで、これが日本方式なのです。
集団食中毒も中毒者は個人で、同じ場所で同時に中毒する点では集団感染に似ているのですが、違いは中毒が次々と感染しないことです。中毒は一過性のものです。ところが感染は次から次と起こっていきます。連続的に玉突きやドミノ倒しが起こり続けるようなものです。
さらに、症状のある中毒者と違って、見えない保菌者がいる新型コロナウイルスの場合は、それを見えるようにしなければなりません。それを可能にするのが検査です。症状のある感染者に対して行うのが現在のPCR検査です。感染者の数が一人でも複数でもクラスターと呼んで構いません。見えるようになったクラスターのメンバーに対して隔離、治療を行い、二次や三次の感染の連鎖を防ごうという訳です。中毒と比べると感染症が如何に厄介かよくわかります。
大分市の国立病院機構大分医療センターで19日から8名の感染者が出て、クラスター対策班が派遣されています。院内感染によるクラスターの発生です。600名以上の病院関係者のPCR検査が必要になるでしょう。院内感染を通じたオーバーシュートを防ぐにはPCR検査によって感染者を特定し、病院の一時的な封鎖、封じ込めが必要になります。集団感染を封じ込めるには一人の感染者の隔離と治療を積み重ねるしかありません。
ウイルス感染の封じ込めには色んな方法があります。ウイルス自体を殺すこと、感染者を殺す、隔離することはとても直接的ですが、薬の開発や免疫力の強化といった間接的な方法もあります。さらに、ウイルスと共生するという手もあり得るのです。