日本橋と江戸橋の間、日本橋川の北岸ににあった魚市場が魚河岸。17世紀の初めに開設され、1935年に築地市場へ移転するまで300年以上続いた。魚河岸は日本橋地域に1656年まであった「吉原遊郭」や1842年まであった「歌舞伎小屋」とともに「一日千両」と称された江戸の繁華街だった。魚河岸は江戸が東京になってからも人々の食卓に全国の魚介類を供給していたが、1923年の関東大震災後の東京改造計画によって築地への移転が決まった。だが、日本橋を去ることに反対する人が多く、移転完了には決定から10数年を要した。
築地市場は、中央区の築地に1935年から2018年まで83年間使われてきた公設の卸売市場である。2018年10月6日に営業を終了し、10月11日に豊洲市場が開場し、同日解体工事が始まった。
解体工事はまだ本格化していないが、今はすっかり静かになった市場が隅田川の対岸から見える(画像)。その光景は暫しの休憩という感があり、長年の労をねぎらう気持ちと共に、寂しさも覚えるのは私だけではないだろう。二回の市場の移転はよく似た感情を人々に引き起こしたようである。移転や移動にはいつでもどこでも寂しさと嬉しさの両方が綯い交ぜになって付き纏う。