ウラナミシジミの自己擬態から

 敵にとって大きな目玉は威嚇になりますが、小さい目玉は鳥やカマキリなどの外敵にとって、威嚇とは逆に、狙いの的となってしまいます。目を狙われたら、チョウも一溜まりもありません。そのため、ウラナミシジミは自分の別の場所に偽物の目をつけているのです。いかにも目であるかのように翅を動かし、相手の気を引きつけようとします。外敵から狙われても、それが偽物の目玉模様に過ぎないのであれば、翅の損傷だけで済みます。尾状突起がおまけのように付いていますが、二つの黒い斑点と合わせて、複眼と触角を擬態しているのです。(この尾状の突起は飛ぶ際に何の役にも立たないと思われていたのですが、本当の目的は擬態だった訳です。)

 「自己擬態」は自分自身の体の一部を必要な部分に似せる擬態のことで、ウラナミシジミは後翅に触覚のような尾状突起と目のような眼状紋があり、頭部のように見せています。こうなると、生き物は因果応報の世界の住人に思えます。でも、人間とウラナミシジミを考えると、私を含め多くの人はウラナミシジミの擬態に気づきません。つまり、多くの人にはウラナミシジミ生存戦略は役に立たないのです。こうして、少々性急に言えば、生物の世界には、互いに無関係で、干渉することなく、袖振り合うことのない生き物がいることも示しているのです(少数の人にはウラナミシジミの擬態は有用で、その効用の度合いを考えることもできます)。生物の世界には擬態が役立つ場合とそうでない場合、そして役立つ度合いが共存しているのです。