既にセロシアの花としてケイトウの花を紹介したのですが、今回は子供の頃から見慣れたケイトウの花です。ケイトウは8世紀頃に中国や朝鮮を経由して渡来し、鶏頭花(けいとうか)と呼ばれました。伊藤若冲の「鶏頭蟷螂(けいとうかまきり)図」(1789)は鶏頭花の美しさから逃れられなくなったカマキリを通じて、世俗的な欲望に執着する姿を描いたと言われていますが、鶏の鶏冠のような懐かしいケイトウの花です。
私が子供の頃の田舎ではあちこちにケイトウが目立ち、夏から秋にかけて赤い花が自己主張をして輝いていました。カマキリもケイトウと同じようにあちこちにいて、珍しい存在ではなく、カマキリがケイトウの花の上にいても珍しい風景ではありませんでした。ですから、子供の私が若冲の絵を観たら、特段珍しい組み合わせを描いたのではなく、ごく日常の自然を描いたと思った筈です。
例えば、俳句ならすぐに思い出すのは、曾根毅の
鶏頭の俄(にわ)かに声を漏らしけり
の一句があります。この句はケイトウの生き物のような花姿を鶏の声のようだと表現しています。伊藤若冲や曾我蕭白が描くケイトウにピッタリです。
*以前記したセロシア・ダークカラカスは熱帯アジア原産のノゲイトウの仲間で、この細長いケイトウには、「鶏頭のどこ掴みても剪(き)りがたし」(河内静魚)がピッタリです。
(「鶏頭蟷螂図」)
(セロシア・ダークカラカス)