同じ木の枝に二色の花が咲き、紅白が競うように咲くと、「源平咲き」と呼ばれ、それはウメだけでなく、ツバキ、ツツジ、ボケの仲間にもあります。本来は赤い花の木なのに、赤い花に必要な酵素が働かなくなることによって白い花になってしまうのです。「源平咲き」より複雑に見えるのが昨日のチェリーセージ・ホットリップスの花の色の変化。条件によって、花の赤い色の部分の割合が変化し、白一色、赤一色になることもあります。正直なところその原因は判然としません。
また、「どうして花の色は時間の経過とともに変わるのか」という疑問もあります。ニオイバンマツリ(匂蕃茉莉)は、ナス科の常緑樹で、南アメリカ原産。花は咲き始めが濃い紫色で、次に薄い紫色、最後は白色になります。和名の匂蕃茉莉は、匂(香り)があり、蕃(外国)からの、茉莉(ジャスミン類)の意味。ニオイバンマツリの最大の特徴は、花の色が初めは濃い紫ですが、やがて白に変わっていくところ。紫と白の色合いはとても上品で、香りも数十メートル先まで漂います。ハコネウツギ(箱根空木)はスイカズラ科の植物で、花は白が次第に赤へと変化していきます。つぼみのときは白ですが、次第に赤色に変わっていくのです。
ニオイバンマツリもハコネウツギも二色の花が咲いているように見えながら、実はそうではなく、花の色がある色から別の色へと変わっていたのです。また、スイカズラの花は白から黄色に、スイフヨウは朝白く、次第にピンク色に変わります。これらはどれもチェリーセージとは違う花色の変化です。
多彩な色をもつ花の器官は花弁と萼(がく)。例えば、バラでは花弁の色、アジサイでは萼の色、ユリでは花弁と萼からなる花被(かひ)の色が 「花の色」。この花の色を決定する一番の要因は、細胞の中に存在する色素。色素は表皮細胞中の色素体にあったり、液胞に溶けていたりします。色素はそれぞれ特定の波長の光を吸収する性質をもつため、色素に吸収されずに反射した可視光を、私たちは花の色と感じているのです。例えば、純白の花には色素が含まれておらず、視光の波長を吸収する成分がないため、可視光が乱反射され、私たちには白色に見えます。花の色素には4種類あり、それぞれフラボノイド、ベタレイン、カロテノイド、クロロフィルと呼ばれています。
花の中で最も多い色は黄色、次いで白色。黄色は主にカロテノイドによって作られます。カロテノイドによる黄色を持つ代表的な花はキクやバラ。フラボノイドの中には黄色い種類もあり、カーネーションやキンギョソウの明るい黄色はフラボノイドによって作られます。花の赤色、紫色、青色は、フラボノイドの中のアントシアニンという色素によって作られます。同じアントシアニンを持っていても、金属や補助色素と呼ばれる無職の化合物の違いによって異なる色の花が咲きます。例えば、アジサイでは、青色の花を咲かせるためにはアルミニウムが必要です。一般には青色の花が咲くためにはとても複雑な仕組みが必要であり、昔から多くの研究が行われています。
さて、色が生まれ、変化する化学がわかったとしても、どうしてそのような変化が起こったのか、いつ頃どのように起こったのか、という問いには別の説明が必要になります。その説明が進化論的説明であり、適応のシナリオ、モデルの作成です。人が怒る脳内メカニズムや身体変化がわかっても、なぜ怒るのかの理由はそれとは別物です。それと同じように、花の色の化学は随分と充実しましたが、ニオイバンマツリやチェリーセージの花の変化がどのような理由で生じたのかという問いには十分な情報を与えてくれないのです。