枯れ木に花?

 ソメイヨシノより先に満開のハクモクレンは青空の中で存在感を示しています。皮肉好きなら「枯れ木も花の賑わい」と揶揄するかもしれません。そんなへそ曲がりより、先ず花をつけることによって植物の本性を実現する試みが表現されていると優等生的に考える人の方が多い筈です。確かに、ウメもソメイヨシノハクモクレンも枯れ木のような状態で、花を咲かせます。私たちは昔からこの「枯れ木の花」を妙に好んできました。むろん、多くの植物が花と葉を共存させていますから、それも私たちは嫌いではありません。緑と赤や白は私たちが好感を持つ色の組み合わせです。

 植物の生殖過程では、先ず葉が茂ることで光合成が営まれ、エネルギー(栄養分)が蓄積され、それによって花芽が成長して開花、受粉(受精)し、果実がつくられ、果実が成熟し、新しい個体に育つというシナリオが成立しています。この過程には大量のエネルギーが必要で、生殖の過程と光合成によるエネルギー獲得が同時進行することが植物には好都合のように見えます。

 では、ソメイヨシノハクモクレンなどで花の咲くのが葉の出るのに先行する理由は何なのでしょうか。開花と新芽は実際にはほぼ同時に進行する現象ですが、花芽が休眠中に大きく成長しているため、開花が芽生えに先行するように見えるに過ぎないのでしょうか。あるいは、仕組みとして開花と開葉は別々にコントロールされていて、場合によっては開花の結果が芽生えを促すことも考えられます。何れであれ、開花と開葉の時間差は植物にとっては重大で、それが受粉の過程に影響を及ぼします。受粉の効率化の観点(風媒花や虫媒花と、関係する動物の行動)から研究されていますが、いまだ決定的な解答を私たちは知りません。考えてみれば、植物にとっての最も基本的な問いの一つです。