一面の田圃、一面の麦畑、一面のトウモロコシ畑は雄大に見えるのだが、不自然な風景でもある。人が自然を自分の都合で変えてしまった風景で、眼に入る限りのトウモロコシ畑などは生物多様性に真っ向から反対する事例である。ワインをつくるためのブドウ畑やヒマワリ畑もその例で、映画「ひまわり(I Girasoli )」では一面に広がるヒマワリ畑が映し出されている。
斜面につくられた棚田を見てどう思うか。とても不自然で、自然を搾取しているなどと思う日本人はまずいないが、その日本人が一面のヒマワリ畑を見た印象はどうだろうか。自然の乱用と思う人が結構いる筈である。何とも人はちぐはぐな対応をするものである。
さて、「ひまわり」はソフィア・ローレンがマルチェロ・マストロヤンニと共演した、1970年公開のイタリア、フランス、ソ連の合作映画。監督はヴィットリオ・デ・シーカ、音楽はヘンリー・マンシーニ。戦争によって引き裂かれた夫婦を悲哀たっぷりに描き、日本でもファンが多い。
この暑い中でヒマワリは元気に咲いている。日本ではヒマワリは観賞用がほとんどだが、世界的には食用や油糧として栽培されることが多く、ロシアでは世界全体の4分の1のヒマワリ油が生産されていて、ヒマワリはロシアの国花になっている。実際、私たちに馴染み深い大型のヒマワリの銘柄は「ロシアひまわり」。
最近はウクライナ寄りのニュースがほとんどだが、映画「ひまわり」のロケ地をめぐる謎もそのような一つ。NHKの「名作映画「ひまわり」に隠された”国家のうそ”」(2022年05月11日)によれば、日本ではこの映画の撮影はウクライナ南部のヘルソン州だとされていた。しかし、中部のポルタワ近くにあるチェルニチー・ヤールという村だと判明。東部戦線で実際にイタリアが派兵したのは、映画が撮影されたポルタワ州から現在のロシアにかかる地域。撮影場所が明らかになり、現地が調べられると、不都合なため、イタリア兵の主戦場ではなかった南部ヘルソン州を撮影場所にしたと考えられる。確かに、合作映画でありながら、「ひまわり」がソビエト国内で上映されることはなかった。
ヒマワリの花はロシアだけでなく、ウクライナの国花でもある。ロシアのウクライナ侵攻前なら、私を含めて、画面のヒマワリ畑からロシアを連想する人がほとんどだった。