ワグネル、あるいはワーグナー

 Z世代、あるいはジェネレーションZ(the generation Z)は1990年代半ばから2010年代初めまでに生まれた世代。一方、Z(ラテン文字)は2022年ロシアのウクライナ侵攻に参加したロシア軍の軍用車両に記された符号の一つ。二つは似ているが、関係はない。それとよく似ているのが二つのワグネル(ワーグナー)。

 ワーグナー(Wilhelm Richard Wagner)は1813年ライプチヒで生まれ、1883年ナチズムの台頭よりもはるか以前にベネチアで亡くなった。ヒトラーワーグナーの音楽を好み、ナチスは映画や集会でワーグナーの音楽を積極的に使った(そのため、ワーグナーの音楽は今でもイスラエルでの演奏が禁止されている)。「ワグネリアン」がネガティブな意味合いを持つ理由の一つにワーグナー反ユダヤ主義があり、ヒトラー自身ワグネリアンを自称していた。

 慶應義塾ワグネル・ソサィエティー・オーケストラは1901年創立の日本最古のアマチュア学生音楽団体。その名称はワーグナーに因んだもので、ワーグナーの先進性、自由な発想、そして開拓者精神という理想が込められている(ワグネル・ソサエティにはオーケストラの他に男声合唱団、女声合唱団があり、どれもワグネルと略称されている)。

 一方、アメリ財務省が「ロシア国防省の指定代理軍」としているのが今話題のワグネル。ワグネルという名前は組織を設立したドミトリー・ウトキンがナチスの指導者アドルフ・ヒトラーが好んだワーグナー(ワグネル)を自らのコールサインに選んだことに由来する。

 暫く前までは「ワグネル」と聞くと、慶應の「ワグネル」だったのだが、最近はすっかりロシアの「ワグネル」になってしまった。

*英語ではワグナー ([wægnɚ])、ドイツ語ではヴァーグナー( [vaːgnɐ])、フランス語ではワグネ([wagne])。日本ではワーグナー 、ワグネルという呼び方や表記が多い。ロシア語のスペルはВагнерで、発音はヴァグネル。ロシア語のヴァはワに近いので、ワグネルという日本語表記が一般的である。