宗教二世問題へのヒント

 宗教は正気と狂気が入り混じり、その葛藤が本性です。正気を失った宗教の狂気が凶器となって、脱社会、反社会となり、カルト集団へと変貌した例を私たちは幾つも知っています。宗教は個人の悟りと共に、共同体としての活動でもあります。日本にも一向一揆や殉教など、反体制的な活動がかつてはありました。宗教は反社会、反体制の本性をもっています。疑うことが科学であれば、信じることが宗教。そして、信じるために不可欠なのが洗脳やマインドコントロールでした。

 二世信者の問題に対するヒントとしてアーミッシュを考えてみましょう。アーミッシュアメリカのペンシルベニア州や中西部、カナダのオンタリオ州などに居住するドイツ系移民の宗教集団で、原郷はスイス、アルザス、シュワーベンなどです。2020年時点での推定人口は約35万人で、随分と増えています。

 『刑事ジョン・ブック 目撃者』(原題はWitness、1985年公開のアメリカ映画)を思い出す方がいるかも知れません。主演はハリソン・フォード、ケリー・マクギリス。殺人事件の「目撃者」となったアーミッシュの少年とその母親を守る刑事の闘いを描いたサスペンス映画です。一方で、キリスト教の教えを守り、非暴力で前近代的な生活を営むアーミッシュと刑事との文化的、心理的交流を描いたヒューマンドラマとしての側面も持っていました。

 アーミッシュには厳格な戒律があり、各地のコミュニティごとに合議によって定められます。彼らは専用の教会をもっていません。教会が権威の場となることを嫌ったためです。学校教育はすべてコミュニティ内で行われ、教育期間は8年間。教師はそのコミュニティで育った未婚女性が担当し、教育内容はペンシルベニアドイツ語と英語と算数のみです。また、アーミッシュは移民当時の生活様式を守るため、自動車、電気を使用せず、現代の一般的な通信機器(電話など)も家庭内にはありません。昔の生活様式を基本に農耕や牧畜を行い、自給自足の生活を営むことが彼らの目標です。

 二世問題へのヒントになると思われるのが、アーミッシュの子供は16歳になると一度親元を離れ、俗世で暮らす「ラムスプリンガ」という期間に入ることです。その間、アーミッシュの掟から完全に解放されます。子供たちは酒、タバコ、ドラッグなどの俗世の快楽を経験できます。そして、18歳でラムスプリンガを終え、成人になる際、アーミッシュのコミュニティに戻るか、絶縁して俗世で暮らすかを自ら選択することが認められているのです(これは『Devil’s Playground(悪魔の遊園地、監督ルーシー・ウォーカー、2002)』というドキュメンタリー映画で具体的に知ることができます)。「外の世界」から、再び「アーミッシュ」の世界へ戻るか否かは、本人の自由意志に委ねられているのです。

アーミッシュの人口が35万人を越えて、増え続けていることは、アーミッシュのコミュニティに戻る若者が多いことを間接的に示しています。