キキョウソウはアメリカ原産のキキョウ科の帰化植物。自生域はカナダからアルゼンチンに及ぶ。英名は「Common Venus' looking-glass」で、ビーナスの鏡。何ともロマンチックな名前である。やはり帰化している小型のヒナキキョウソウ(雛桔梗草、Clasping Venus' looking-glass)はとてもよく似ている。キキョウソウの花は小さいので、見落とされがちだが、良く見ると確かに キキョウの花のようで、つい見惚れてしまう。このキキョウの花のような花は開放花と呼ばれる花で、キキョウソウにはもう一つ閉鎖花がある。
キキョウソウは春から閉鎖花をつけ、今頃になると通常の花=開放花を咲かせる。まずは閉鎖花で確実に子孫を残し、その後ゆっくりと花を開いて遺伝子を交換することになる(最初の画像の開放花の下に筒のように見えるのが閉鎖花)。キキョウソウは茎の中部から下部にたくさん閉鎖花をつける。このような戦略はスミレにもあるが、順番は逆で、スミレは先に開放花をつける。キキョウソウもスミレも可憐な装いながら、実は強かな戦略をもっている。
*開放花と閉鎖花
昆虫などの受粉媒介者の行動を借りて受粉し、遺伝子を交換することで多様化を図るのが開放花の目的。受粉には不確実性が伴い、花を咲かせるのに多大なエネルギーを費やすが、より広範な場所に遺伝子を移動できる。ところが、花冠の一部または全体が開かず、同一個体で自家受粉するのが閉鎖花。自家受粉することで確実に次世代の種を作ることができ、そのために費やすエネルギーも少なくて済み、効率的。遺伝子の多様性は望めないが、確実である。