天狗は日本ではお馴染みの伝説の生き物。神社に祀られ、映画に登場したりと、親しみのある生き物。そんな天狗が持っているのがヤツデの葉っぱの団扇で、ヤツデの葉に魔除けの力があり、風を起こし、空を飛ぶためらしい。別名「天狗の羽団扇」(てんぐのはうちわ)。
葉が八つに分かれているからヤツデ(八手)という説があるが、ほとんどは九つ。「八手」としたのは八が末広がりだからなのか(八方塞がりは?)。また、葉が多く分かれていて、数が多いので(八百屋のように)八手だという説もある。
名前の由来など大した不思議ではなく、本当の不思議はヤツデの花にある。ヤツデの花は虫媒花。昆虫の少ない真冬に開花するので、受粉のため多くの昆虫を引き寄せる必要があり、特別甘い蜜を蓄えている。ヤツデは同じ花の受紛を避けるため、特別な仕組みを備えている。花は一つの花に雄シベと雌シベがある両性花だが、普通の両性花が雄シベと雌シベを同時に熟させて受粉させるのに対し、ヤツデは違っている。ヤツデの花は開いたとき、花弁と雄シベが成熟して花粉がでるが、このとき雌シベはまだ未熟で、そのため昆虫がきて花粉を集めても受紛できない。数日を経て、花弁と雄シベが落ちてから、雌シベが成熟し、他の花の花粉を付着した昆虫から花粉を受け取り、受粉できる。巧妙に雄シベと雌シベの成熟時期をずらし、近親交配を避けているのである。つまり、ヤツデの花の秘術とは絶妙な時間差の利用なのである。