初冬のビワの花

 バラ科のビワで誰もが想像するのは果物で、その食べ頃は初夏。晩秋に花をつけ始めるビワはへそ曲がりで、天邪鬼。だが、サザンカやツバキ、そしてボケも同じ頃に花をつけ始めるので、少数派だが、異端児という程ではない。「ビワ」の語源は葉や実の形が楽器の琵琶に似ているため。古くに中国から渡来し、野生化し、奈良時代には既に果実として食べられていた。ビワの花は12月頃に枝の先に白色五弁の小花をつける。開花は果樹の中で最も遅く、寒さを防ぐため、蕾や花柄は淡い褐色の毛に覆われている。

 湾岸地域にはビワの木が多いのだが、雪国育ちの私には常緑のビワは馴染みが薄く、それは今でも変わらない。ビワは花でも種でもなく、実が主役であることを私に印象づけたのは坪田譲二の童話「ビワの実」。そこには樵の金十のビワを食べる体験とビワの木の再生が描かれている。

 ビワの実がなるのは翌年の5月。その実を美味しくするために不可欠なのが花もぎ。花もぎは必要のない花のつぼみをあらかじめ取り除くことで、「てきらい(摘蕾)」と「てきぼう(摘房)」の二つがある。「てきらい」は必要のない花のつぼみを切り、花の数を少なくし、実の数を減らすこと、「てきぼう」は必要のない房をまるごと切り取ること。

 私たちにとって、ビワの主役は実であって、花ではなさそうである。