ベニバナトチノキは北米原産のアカバナトチノキ(赤花栃の木)とヨーロッパ原産のセイヨウトチノキ(マロニエ)との交雑種。今の場合、赤花の方が紅花より花の色が濃い。ベニバナトチノキは4月末から枝先に花をつける。栃の木の「ピンク色」版と言える。最近は公園や街路樹としてよく見る。トチノキも白花をつけ始めたが、5月中旬が見頃。
トチノキといえば大きな葉が目立ち、栃の実(栃餅の原料)がつく大木なのだが、私のような世代だと「マロニエ」の方を連想してしまう。マロニエはパリの街路樹として有名だが、サルトルの『嘔吐』の肝心の部分に登場する。主人公のロカンタンは30歳の独身学者。そのロカンタンが自分の中で起こっている変化に気づく。公園のベンチに座って眼前のマロニエの根を見ていたとき、激しい嘔吐に襲われる。それが「ものがあるということ自体」がおこす嘔吐であったことに気づく。この嘔吐がロカンタンに「実存」の啓示を閃かせたのである。彼はマロニエの根の塊そのものとして実存を知ったのである。『嘔吐』を初めて読んだのは私がまだ高校生の頃で、トチノキとマロニエが同じことも知らなかった。