君はイチジクの何を食べているのか?(小中学生に向けて)

 イチジクは「無花果」、「映日果」と書かれるクワ科イチジク属の落葉高木で、私たちはその果実もイチジクと呼んでいます。原産地はアラビア南部。日本には1591年ポルトガルから天草に伝えられ、はじめ「唐柿(からがき)」、「蓬莱柿(ほうらいし)」、「南蛮柿(なんばんがき)」、「唐枇杷(とうびわ)」などと呼ばれた異国の果物でした。

 私が子供の頃はどの家にも柿と並んでイチジクがあって、子供には嬉しいおやつになっていました。イチジクを切ったときに出てくる白い液体には悩まされましたが、これはフィシンというタンパク質分解酵素で、その役割は侵入してくる細菌を殺すことです。

 「無花果」は「実がなるのに花がない」という意味ですが、そんなことは不可能に思われます。実は、イチジクの花は実の中で咲き、外からは見えないだけのことなのです。原産地ではイチジクコバチと呼ばれる小さなハチが、イチジクのおしりに開いている小さな穴から入り込んで、中に卵を産みます。幼虫はそこで成長し、体に花粉を付けて外に出てきます。そして、ほかのイチジクに飛んで行き、産卵します。この時、体につけた花粉をイチジクの花につけるのですが、これがイチジクの受粉できる仕組みです。日本で栽培されているイチジクの品種は花粉がついたのと同じように実がなる性質(単為結果性)を持っています。

 実がビワの実に似ていても、ビワより不味いことからついた名前が「イヌビワ(犬枇杷)」。「ビワ」と言っても、イヌビワはイチジクの仲間です。イチジク渡来前、日本ではイヌビワを「イチジク」と呼んでいました。花期は晩春で、雌雄異株。葉の付け根についた雌株の花嚢(かのう)は、秋に赤色から黒紫色へと変化し、果嚢(かのう)になります。イチジクと同じく、イヌビワの花も実のように見えます。内側に花をびっしりつけた独特の形をしていて、「花嚢(かのう)」と呼ばれます。雄株と雌株が別々で、花粉を運ぶのがハチのイヌビワコバチの役割です。花粉にまみれて外に飛び出した雌バチは、ひたすら新しい花嚢を捜し、雄花ならば産卵し、その卵は花の中で冬を越し、翌年羽化することが出来ます。ところが、雌花に飛び込むと、産卵できず、命を落とすことになります。

 こうして、雌株の花嚢が果嚢(かのう)になる、これがいわゆるイチジクの実です。「無花果」の漢字は、花が咲かずに実をつけることに由来する漢語で、日本語ではこれに「イチジク」という熟字訓(熟字、熟語に対する訓読みのこと)を与えました。日本で栽培されているイチジクは雌花しかつかない雌の木のみで、受粉しなくても熟すタイプです。受粉しないので、実が熟れても種はできません。イヌビワの実の食感はイチジクに似ていて、食用部分は雌花の花托部分です。

 イチジクのもう一つの仲間がアコウ。アコウの花も表には見えず、太い枝や幹に突然できる「花嚢」の中にひっそりと咲きます。やはり雌雄異株で、イチジクコバチが花嚢の口部を出入りすることで交配します。アコウの花嚢も果嚢へ変わっていきます。この実はイチジクと同じく、花嚢の内側につき、外見上花が見えないまま、果実が熟します。

*画像はイチジク、イヌビワ、アコウの実です。