シャクナゲの花

 昭和世代の私は「シャクナゲ」と聞くと、シャクナゲそのものより「しゃくなげ色に たそがれる はるかな尾瀬 遠い空」という歌の一節を思い出してしまう。「夏の思い出」に登場するシャクナゲ(石楠花)は高山種の花木。だが、それが最近は公園でもよく見かけるようになった。「しゃくなげ色」とは淡い紫みのピンク色を指すのだろうが、井上靖には大いに気になる花だったようである。彼の短編に「比良のシャクナゲ」があるが、彼の処女詩集は『比良のシャクナゲ』。散文詩として書かれたのは1946年で、それが小説として発表されたのは1950年の『文学界』。その詩は花、星など自然美が象徴する永遠に対して、人間性の卑小さを表現している。

 ツツジ科のシャクナゲは本来渓谷に群落として自生していて、新緑の季節にツツジに似た大形の花を咲かせる。シャクナゲは葉にケイレン毒を含む有毒植物で、吐き気や下痢、呼吸困難を引き起こすことがある。シャクナゲには園芸種も多く、最近ではセイヨウシャクナゲがよく出回っている。身近にあるシャクナゲは深山の高貴さを失ったかも知れないが、それでも私たちを惹きつけるに十分な魅力をもち続けている。

 本来のシャクナゲの花時期は4~5月。秋咲きや二季咲きのシャクナゲがあるのかと調べてみると、春と秋に咲く品種がセイヨウシャクナゲにあり、種類に応じて花の時期は異なるようだ。最近は年中どこかでシャクナゲの花を見ている気がしているが、それも何となく納得できる。