自然の中の赤い実の意味

 北原白秋作詞、成田為三作曲の童謡「赤い鳥小鳥」の歌詞は次の通りです。

赤い鳥 小鳥 なぜなぜ赤い 赤い実を食べた

白い鳥 小鳥 なぜなぜ白い 白い実を食べた

青い鳥 小鳥 なぜなぜ青い 青い実を食べた

白秋の詩のリズムや意味はさておき、鳥と実、そして色の関係は気になるところです。

 ミツバチは黄色や白色は認識できますが、赤色が認識できません。でも、アゲハチョウは赤色が認識できます。そして、鳥も赤色が認識できます。これだけでも、野生の花の色は白色、黄色、紫色、赤色の順に多いのに対し、実の色は赤色と黒色が圧倒的に多いことが何を示唆しているか見当がつきます。花の色を変えるハコネウツギの場合、受粉前の花は白色で、それによって昆虫を引き寄せ、受粉後は花の色が赤に変わり、昆虫に感知されなくなります。色の変化は受粉の効率を意図したものと考えることができます。

 実際、熱帯アジアの鳥類が実を選ぶ時に赤い実と黒い実を好む傾向があるという研究結果も出ています。これは、「多くの果実が熟すと赤くなるのはなぜか」という問いに解答を与えてくれます。赤色は昆虫には見えにくい色で、種子を食べる昆虫は紫外線が見えますが、赤は見えない場合が多いのです。でも、赤い実は種子を運ぶ鳥にはよく見えます。人は、赤、青、緑を感知するために3種類の光受容錐体細胞を持っていますが、鳥は4種類の錐体細胞をもっていて、その4つ目の錐体細胞がスペクトルの紫外線領域を感知でき、それが私たちより性能の良い眼になっているのです。

 実は種の保存のために動物を惹きつけますが、赤、橙,黄色が多く、果肉の中には甘くなるものもあります。苦い果肉も多いのですが、私たちと違って鳥たちは実を飲み込むだけなので、味は気にしないようです。でも、熟するまでは緑色で目立たないように進化したようです。そのため、花びらは虫のために紫外域を反射し、白、黄色、紫が多いのですが、実は虫に見えにくく、鳥やサルには見えやすい赤色が多いのです。

 同じ植物でも、花、葉、実とそれぞれの色の変化の事情は微妙に異なっていますが、白い花と赤い実の組み合わせが種の保存には有効だったようです。

 

*さておいた白秋の詩について。詩は「赤い鳥、小鳥、なぜなぜ赤い。」という問いと、「赤い実を食べた」という答から構成されています。北原隆太郎(白秋の長男)は「なぜなぜ赤い、これを現成公案という。実を食えばわかる。」と書いています。「現成」は「現成正覚」の略で、「悟りとは目の前に実現されている」こと。これを課題、つまり公案とすれば、「悟りとは何か」が現成公案です。これからもわかるように、白秋の歌詞の意味については茫洋として、曖昧な内容と受け取られることが当初からあったようです。上記の私の説明も白秋の詩に触発されて、昆虫や動物と植物の実について考えてみた結果です。