複雑なものがなぜ予測できないのか。その理由には次のようなものがあります。
1)論理的な不完全性
論理的ルールからから生じるパラドクシィカルな結論。これはゲーデルの不完全性定理からの帰結で、算術を含むどのような公理系にも証明できない事柄(命題)が存在します。数学においてさえ、予想されないパラドックス(例えば、Banach-Tarskiの定理)が起こるのです。
2)カタストロフィー
ルネ・トムのカタストロフィー理論は「原因がわずかに変化した時、必ずしも結果がわずかに変化するわけではない」という現象の存在を鮮やかに示しました。
3)カオス
決定論的なランダム性が非線形方程式に含まれています。一般に長期天気予報が不可能なのはカオスのためです。
4)計算不可能性
法則や方程式系が与えられていても不可解なものがたくさんあります。3 体問題などを含む多体問題や非線形波動方程式の大部分がそうです。規則や法則がわかっていても何が起きるか予測できず、解の存在が証明できていないのです。
5)還元不可能性
複雑なものは単純なものにいつでも還元できるとは限りません。量子力学の観測問題がこれに該当します。私たちにはどうして波束が収縮するか説明できません。
6)創発性
自己組織化による異なる次元でのパターン出現が創発です。遺伝子によるタンパク質合成の結果から「意識」が生じます。分子レベルでいくら解析しても意識の発生を説明できません。これも予測不可能性の一種です。
ここまでくると、これらの不可能性が組み合わされ、予測や説明が不可能だと誰もが認めるような現象や事態、あるいは対象が私たちの周りに溢れていることがわかります。例えば、すぐに頭を過るのは心の変化(感情や情緒)、人間の行動(究極の予測不可能なもの)といったものです。人の心や振舞いに大きな影響を受ける社会組織や現象は数多く、人口のサイズやその年齢構成も代表的な例なのです。人口の場合は上の理由のどれが当てはまるか、各自考えてみてください。