榊(サカキ)

 私の住んでいた新井の町では毎月6と10のつく日と晦日に市(いち)が立っていた。子供の私には沢山の農産物が通りの両側に並んでいた記憶しかない。市が立つ度に農産物を運ぶ人たちの通り道になっていた北国街道に面した我が家では、わざわざ市に行かずとも、簡単に野菜や工芸品を買うことができた。「榊」はそんな品物の一つで、私の祖母は市の立つ日には榊だけでなく、野菜の大半も市に品物が並ぶ前に手に入れていた。ちょうど今頃は露地物の野菜が多く、お盆に向けての花も多かった。そのためか、榊はナスやキュウリと並んで、私には馴染の植物だった。
 今「サカキ」として知られるツバキ科のサカキは、もともと寒い地域ではあまり育たない木で、そういった地域では松や杉などの常緑樹が代用として用いられていたようだが、確かに本物の榊だったと思う。
 古来から植物には神が宿り、特に先端がとがった枝先は神が降りるヨリシロとして若松やオガタマノキなど様々な常緑植物が用いられてきたが、近年は身近な植物で枝先が尖っていて、神のヨリシロにふさわしいサカキやヒサカキが定着している。
 家庭の神棚にも捧げられ、月に二度取り替える習わしになっているらしいが、祖母は律儀に白い榊立てに榊を供えていた。仏壇に花を供え、神棚に榊を供えることがごく自然なことだった。旧盆の前には仏壇の仏具を真鍮磨きで綺麗に磨き、大晦日の前には神棚を掃除し、しめ縄を新しくしていた祖母の姿が思い出される。

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サカキ

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サカキの花

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ヒサカキ