宇治と言えば、茶と平等院が有名ですが、黄檗宗の萬福寺を忘れてはいけません。その萬福寺の観光パンフの中などに「京洛の巽、妙高峰の麓に中国風の伽藍が整然とたたずむ黄檗山萬福寺」、「宇治の妙高峰、五雲峰の西にある萬福寺」という表現がよく登場します。五雲峰は地図で確認できますが、妙高峰はありません。
次は「黄檗山萬福寺聯額集」の中に登場する妙高峰。聯額は中国家屋の玄関口に懸けられた額のことで、柱に懸けられたものが柱聯(ちゅうれん)。柱聯は僅かな字数で深遠な内容を表現し、ほとんどが対句となっています。
南源性派筆の黄檗山方丈中門の柱聯は次のものです。
左 華蔵圖開萬國春 華蔵図 萬國の春を開く
(方丈裏山の妙高峰は千年もの翠で囲まれているかのようで、仏の教えを絵にした様な春の景色が広がっている。)
木庵性瑫筆の黄檗山妙高亭の柱聯は次のものです(黄檗山萬福寺伽藍建立年表に妙高亭はなく、現在の萬福寺の鳥瞰図にも描かれていません)。
右 境妙含華蔵 境 妙にして華蔵(けぞう)を含む
左 亭高納大千 亭 高くして大千を納る
(黄檗山の妙高峰のあたり一帯は華厳経に書かれた蓮華蔵の世界そのままで、その中心に建てられたこの妙高亭はさながら全て一切を納め取ってしまうかのようである。)
妙高峰は萬福寺の背後に聳える円形の山で、黄檗十二景の一つになっています。
*隠元が萬福寺をめぐる景勝地を十二選したのが黄檗十二景で、妙高峰、大吉峰、五雲峰、白牛巖、青龍澗、雙鶴亭、三汲池、龍目井、松隠堂、萬松岡、中和井、東林庵です。現在の萬福寺の案内鳥瞰図では妙高峰が北に、五雲峰が南にあり、現在の高峰山(298m)が妙高峰、五雲峰はそのまま現在の五雲峰(343m)と思われます。