アリストテレスの自然学(Physica、物理学)とガリレオの思考実験

 机の上に本を置き、横から押してみる。押す力を強くしていくと、本は机の上を動き出す。力を加えるのをやめると、本は止まってしまう。このことから、物体は力を加えれば動き、力を加えなければ止まることがわかる。さて、ここで力と運動を区別することが重要。運動という概念は、物体が運動するというだけでなく、静止していることも含んでいる。でも、力=運動ではない。力は物体に加わる力で、動く、止まるというのが運動。このような「力による運動」という考え方を最初に思いついたのがアリストテレス。この考え方は非常に長い間支持されてきた。アリストテレスの自然学をまとめると次のようなものになる。

 

1.すべての運動には原因がある。この原因は力である。力がなければ物体は止まる。

2.力には2種類ある。一つは押したり引いたりする力で、接触することによって起こる。もう一つは、物体に内在する力で、坂を転がり落ちていくときなどに必要な力である。

3.重力とは物体が落ちようとする性質によっておこる。重い物体の方がよりその性質が強くなる。つまり、重力は物体に内在する力である。

4.重い物体は、軽い物体よりも速く落ちる。速さは重い物体の方が大きくなる。

 

 例えば、物体を放り投げると、地面に落ちるまで運動し続けるが、これはどのように説明されるのか?アリストテレスによると、空中に投げた石の後方には空気の渦ができ、これが石を押し続け、運動が持続される。その頃でもこの説明は何かおかしいと考えた人がいたはずだが…

 アリストテレスノ考え方に果敢に反旗を翻したのがガリレオ。机の上で、パチンコの玉を転がしてみよう。すると、ほぼ一定のスピードで転がっていく。ガリレオはこれを、アリストテレスのように空気が押していると考えるのではなく、「力が加えられなければ、パチンコの玉は一定のスピードで転がり続ける」と考えた。これは発想の転換。では、本の場合はなぜ止まるのか?どんなに平らに見える表面もよく見ればごつごつしている。そして、本と机の表面がざらついているために、運動を止めようとする力が働く。実際、机の上に手のひらをあてて左右に手を動かしてみると、机上を動かさないようにする力を受けているのを感じる。これが「摩擦力」。物体が重いと、接する面が増加し、摩擦力が強くなる。本の表面の分子と机の表面の分子が引き合う力が摩擦力。こすれ合う力を生み出すのは分子間引力があるためである。

 上の4が間違っていることを示すためにピサの斜塔を使って実験したのもガリレオだった。ガリレオは、「物体の落下速度は その物体の重さよらず一定である」ということを証明するために、ピサの斜塔から大小二つの鉛の玉を同時に落とし大小両方の玉が同時に地面に落下することを確認した。

ガリレオの思考実験>

 ガリレオピサの斜塔で落体の実験をするだけでなく、アリストテレスの落体についての法則は誤っていることを「思考実験」で示していた。それを見てみよう。まず、アリストテレスの法則は次のように表現できる。

 

アリストテレスの法則:重い物体はそれより軽い物体と比べ、より速く落下する。

 

さて、ガリレオはこの法則が誤りであることを「帰謬法(reductio ad absurdum)」によって示した。アリストテレスの法則が正しいとすると、矛盾が出てくる、したがって、法則は誤りというのがガリレオの論法だった。

 「重い物体Mと軽い物体mがあり、アリストテレスが信じていたように、重い物体ほど速く地上に落下すると仮定しよう。最初の仮定から、Mmより速く落下する。さて、m M が一緒になった物体を考え、それをm + M だとしてみよう。すると、何が起こるだろうか。m + MMより重く、それゆえ、Mより速く落下しなければならない。だが、一緒になった物体m + Mの中で、Mmはそれが一緒になる前と同じ速さで落下するだろう。だから、遅いmは速いMに対してブレーキのように働き、m + M Mだけの落下の場合よりゆっくり落下するだろう。それゆえ、m + MMだけの落下の場合より、速く、かつ遅く落下することになり、これは矛盾である。したがって、アリストテレスの法則は誤りである。」

 このガリレオの結論を別の思考実験で考え直して、もう少し強い結論を導き出してみよう。まず、同じ重さの立方体Mを二つ用意し、この二つをピサの斜塔から同時に落とすとする。同じ重さの二つは同時に地面に落ちる。次に、二つを縦に重ねて間をおいて落とすことを考える。二つは同じ速度で落ちていくから、二つの落下速度は変わらない。では、その間隔をどんどん短くしていったらどうか?間隔が0、つまり縦に重なったまま落としたらどうか?間隔が0になった途端に落下速度が変わる、とは考えられない。重さは別々の時の2倍になっている。それでも落下速度は変わらない。同じように、3個、4個、5個…と立体の数を増やしても思考実験ができる。あるいは、逆に1個の立方体を2つ、3つ…に分割する実験もしてみることも考えられる。重さを何倍にしても、何分割してもそれぞれの落下速度が同じなら、落下速度に違いはでない。よって、「物体の落下速度は物体の重さにはよらない」ということになる。

 

 二つの異なる思考実験によって二つの異なる結論を得たが、それらはどのように異なる結論なのか?そして、さらに重要なことだが、思考実験とピサの斜塔での落体の実験との違いは何か?連休中に考えてみてはどうだろうか。