原子と生物の存在の仕方

 どうして原子には子供を産む、世代交代をする、生まれ死ぬ、つくられ壊れる、といったことが起こらないのでしょうか。原子と違って、生物には生死があり、世代交代があり、時には絶滅が起こります。原子と生物は存在の仕方がまるで異なっています。

 原子は普通の状態では壊れません(それゆえ、無理やり壊すととんでもないエネルギーを出し、原子爆弾になります)。ですから、原子は子孫を残す必要がありません。でも、DNAもアミノ酸も壊れる可能性をもっています。壊れる物質からできているのが生物であり、その生物は壊れることへの恐れから自らの保存のために世代交代という方法を思いついたのです。生命に特有な世代交代は、親のもつ遺伝情報を子孫に伝え、その生物集団を維持しようとするプログラムであり、生物個体を新たに作り、古い個体の持つ遺伝情報を伝えていく仕組みです。

 原子は原子1個が頑丈で安定していることによって存続できますが、生物は集団の中での世代交代のプログラムが頑丈で安定していることによって存続できます。原子と生物の安定性の違いは、物質の安定性と情報の安定性の違いなのです。個々のブナの木が頑丈であることがブナの木や森を存続させているのではなく、ブナの遺伝子が頑丈なプログラムをつくっているからブナの木や森が頑丈で安定しているのです。「ブナの遺伝子」とは生物種としてのブナのことであり、私たちが見ているブナの木のエッセンス、スピリッツと考えていいかも知れません。