凪のとき

 普通ならば、風がない状態、つまり、凪は海風から陸風へ切り替わるとき、そして、陸風から海風へ切り替わるときに起こる。凪の反対は時化(しけ)だが、東京湾は滅多に時化ない。凪のとき、海面は鏡と化し、煙は直上し、景色は静止画像のように見える(実際は静止するわけではなく、鳥や飛行機が飛び、熊や車が走り、人が運動していて一向に構わないのだが…)。

 凪になると、人工物はいつの間にか自然物に変わってしまったかのように海面に浮かび上がっている。凪の風景となれば、静謐な世界。音があってもよい筈なのに、私たちは勝手に音を消し、凪は静かだと思い込んでしまう。確かに、潮騒はないのだが…

 凪は音も動きもない、静かで平穏な風景と思われているためか、「和ぎ」であり、calm、calme、calma、Windstilleなどと呼ばれている。

 

風去りぬ 荒ぶる波も 鎮まりて 海面が光り 凪となりけり

朝の凪 静止画像の 静かさよ

 

凪となり 不安なこころ 波立たん

悟りとは 凪の世界と 思い込み たぎる想いに 心乱れる