白梅の花

 あちこちに梅の花が咲き、花の匂いが香ってくる。梅なら菅原道真、道真となれば九州太宰府天満宮。それに対して東の宰府(さいふ、大宰府の略)は「亀戸宰府天満宮」。昭和11年に現在の「亀戸天神社」となった。残念ながら、現在の東京での梅の名所ランキングトップは湯島天満宮湯島天神)。いずれも菅原道真を祀っている。

 静岡の地酒「臥龍梅」ではなく、広重の描いた臥龍梅が今日の白梅の話。幹や枝が地をはい、そこから根を張る梅が臥龍梅と呼ばれ、珍重されてきた。広重は前景に当時有名だった「臥龍梅」を大きく描き、印象的な詩情を求めた『名所江戸百景』の新しい試みを表現してみせた。赤・紫・緑を背景に純白の梅が咲いている。装飾的、象徴的、日本的な表現が生かされ、早春の気配が描き出されている。『名所江戸百景』は装飾的な表現を多用し、広重の新しい画境を示している。

 さて、「亀戸梅家舗」だが、かつて亀戸天神の近くに梅屋舗と呼ばれる梅の名園があった。園の中の 「臥龍梅」が有名で、大勢の見物客で大変賑わった。名物の「臥龍梅」は、徳川光圀命名し、徳川吉宗も鷹狩の帰りに訪れたらしいが、定かではない。

 印象派の画家ゴッホは多くの模写を残しているが、中でも浮世絵の模写はジャポニズムの影響として知られている。臥龍梅がどのような梅か知る由もないゴッホだが、そのことを知ったとしても模写の絵が変わったとは思えない。

*「湯島の白梅」で有名な湯島天神は梅の名所で、これを有名にしたのが泉鏡花の小説『婦系図』。

*江戸時代の古文書に出てくる「屋鋪」は屋敷と同じ意味

臥龍梅(がりゅうばい)は竜が這っている姿に似ていることから命名

ジャポニズムは19世紀後半のヨーロッパ美術における日本趣味

広重「亀戸梅屋舗」、『名所江戸百景』

ゴッホ「ジャポネズリー:梅の開花」