ロシアと宗教

 ソ連の消滅後、ロシアが再び世界史の舞台に悪役として登場しています。1991年のソ連崩壊後に成立したロシアは広大な領土の多数の民族をいかに統合し、どのように新たなナショナル・アイデンティティ(国のあり方)をつくっていくかが最大の課題でした。それを模索する中、社会主義体制下で抑圧されてきたロシア正教会が復活してきました。そのような動きの中で、ロシア正教会の管轄下にあったウクライナ正教徒の多数派の独立が2018年末、コンスタンチノープル総主教の下で認められました。モスクワ総主教庁はこれに反発し、断交を宣言したと伝えられています。

 ロシアの総人口約1億4千万人中、63%がロシア正教徒です。この教会帰属率はソ連崩壊後、弾圧から保護に転じた政策の転換が反映されています。人々のロシア正教会への回帰が始まり、ロシア正教会プーチン政権以降のロシアにおいて最大の受益者の一つとなりました。復活したロシア正教会は現代ロシアのナショナル・イデオロギーの中核に位置しています。プーチン大統領もロシアが「正教大国」であると述べています。ロシア正教会は政治化し、現代ロシアに対して大きな影響力を持っています。また、この 20 年間でロシア正教会は勢力を急速に拡大し、社会からの信頼も増しています。

 こうして、ソ連が消滅し、ナショナル・アイデンティティを求めるロシアにおいて、ロシア正教会はその中心に位置することになりました。現代ロシアを統合しようとするロシア正教会の地位は向上し、その役割は増大していると考えられます。

 ナショナル・アイデンティティを求める際の宗教の役割を比べると、政教分離政教一致が民主主義と専制主義に重なり、二つの関係の間に相関があるように見えます。政治と宗教が結びつくと、悲惨な結果が生じることを何度も見てきました。そのためか、イスラムの国々と西欧諸国の違いがロシアとウクライナの違いに妙に重なってしまうのです。