統一科学と旧統一教会

 阿部元首相が銃弾に倒れ、旧統一教会が話題になっています。私も旧統一教会をすっかり忘れていた一人なのですが、すぐに思い出したのが「世界平和教授アカデミー」。1973年に韓国で生まれ、翌1974年に日本(134名)と台湾でも設立されました。その後、米国、西ヨーロッパ諸国、中東諸国、東ヨーロッパ諸国、そしてロシアでもつくられるなど、120ヵ国に拡大しました。今風に言えば、旧統一教会の友好団体ということになるのでしょう。

 旧統一教会の正式名称は「世界基督教統一神霊協会(Family Federation for World Peace and Unification)」で、1994年5月に「世界平和統一家庭連合(Holy Spirit Association for the Unification of World Christianity)」に変更されました。とはいえ、色々な教派に分かれているキリスト教会を「統一する」、あるいは「宗教と科学を統一する」という当初の目的はそのまま続いています。

 私がまだ助手の頃、世界平和教授アカデミー主催の会合がメキシコであり、日本からも何人かが参加しました。旧統一教会が背後にあることは周知のことで、私が知っている何人かの先生たちも参加したのを憶えています。

 一方、私が当時関心を持っていた一つが論理実証主義で、「統一科学」という語彙があちこちに出ていました。統一科学(Einheitswissenschaft、unified science)は科学史に登場する主張や運動の一つで、論理実証主義(logical positivism)の立場から物理学を基礎として、全ての科学を整合的な体系に統一しようとする哲学運動でした。自然科学の様々な分野を統一的に把握し、理解することは、古くからの哲学者の夢でしたが、それを「統一科学」と呼んだのは1930年代にウィーン学団論理実証主義者カルナップやノイラートらです。彼らは形式主義と還元主義との二つの原理によって諸科学の統一を試みたのです。

 科学の各分野の問題の論理的な関係を分析し、公理的な演繹体系として形式化することによって統一を試み、科学の各分野を感覚所与や物理学に還元しようとしました。でも、この二つの方法に対して様々な批判が出され、当初の試みは挫折し、科学の統一は夢に終わりました。

 統一科学は20世紀半ばには否定されていたのですが、旧統一教会は夢に終わるどころか、しっかり実在し続けていたのです。従って、統一科学と旧統一教会の二つの「統一」はまるで異なる、しかも乖離した概念であることがわかります。