佐渡金山の世界遺産登録:最近の経緯から

 佐渡金山は17世紀に世界最大級の金を産出し、金採取から精錬までを手作業で行っていた時代の遺跡として唯一のものです。文化審議会は昨年12月28日、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産の候補として「佐渡島の金山」を選びましたが、文化庁は「政府内で総合的な検討を行う」と推薦の明言を避けました。かつて朝鮮半島出身者が過酷な労働に従事したとの反発が韓国政府側にあり、日韓関係への影響を懸念したと思われます。2023年の登録を目指す候補の推薦期限は今年の2月1日です。

 世界遺産は主に三つに分けられ、その一つが文化遺産です。文化の多様性や歴史を伝える遺物が挙げられます。二つ目が自然遺産で、他に類を見ない生態系を維持した自然が挙げられます。そして、三つ目が複合遺産で、文化遺産と自然遺産の両方を兼ねるものです。また、気候変動や遺跡の劣化によって消滅の危機にある遺産は危機遺産とされ、海面上昇によって沈む可能性があるヴェネツィアや、氷河が消滅しつつあるネパールのサガルマータ国立公園が代表例です。戦争の記憶を残す場所や非人道的な行いが行われた場所など「負の遺産」、「記憶の遺産」と呼ばれる世界遺産も存在し、日本では原爆ドームが指定されています。

 ところで、昨年7月に新たな世界遺産の登録を審議するユネスコの会議が始まり、日本が推薦している鹿児島県の奄美大島と徳之島、沖縄県沖縄本島北部と西表島にある森林などと「北海道・北東北の縄文遺跡群」とが審議され、それぞれ新たに世界遺産への登録が決まる見通しです。また、世界文化遺産への登録を目指しているのは、北海道、青森県岩手県秋田県に点在する「北海道・北東北の縄文遺跡群」で、27日に審議される予定です。

 日本政府は「佐渡島の金山」の推薦を正式に決定し、ユネスコ世界遺産委員会へ来年2月1日までに推薦書を提出すればいいのですが、朝鮮人の強制動員が大規模に行われたという韓国政府からの反対があり、苦しい立場に追い込まれました。と言うのも、日本自身の「強い要求」で、世界記憶遺産の登録を進める際、他の加盟国の異議申し立てがあれば、審査を中止する制度を昨年新たに導入したからです。韓国の反対にもかかわらず、登録を強行すれば、日本政府は自らの主張を自ら否定することになります。

 日本政府は2015年10月、日本軍が1937年の南京占領後、中国民間人を大量虐殺した「南京大虐殺」関連記録が「世界の記憶」に登録されたことを受け、「日中間で見解の相違がある」とし、「記憶遺産として登録されたことは、中立・公平であるべき国際機関として問題であり、極めて遺憾だ」と強く反発しました。さらに、2016年に韓国や中国など8カ国14団体が日本軍「慰安婦」記録物について登録申請をすると、ユネスコへの拠出金の支払い停止などの圧力を加え、昨年4月、加盟国の異議申し立てがあれば審査を中止し、期限を定めずに当事国間で対話を続けるように制度が変わりました。

 複数の日本政府関係者によると、登録を実現するには環境整備や日本側の準備作業が足りないなどと判断。推薦の期限は2月1日ですが、政府は今年度の推薦は見送り、将来の登録実現に向けて戦略を練り直す方向で最終調整を進めているようです。

 似たような経緯が同じように繰り返され、肝心の目的である遺産の保存が二の次になるという定番の特徴が見事に表現されていて、若者への教訓として世界中の教科書に共通して掲載したいと思うのは私だけではない筈です。