コブシの袋果

 私は歌謡曲の歌詞で「コブシ」を憶えたためか、栃餅のトチノキと違って、コブシの場合はもっぱら花だけに関心がありました。トチノキもコブシも春に花が咲き、今はその袋果が色づき始めています。コブシの袋果は自由な形態で、大抵はグロテスクな塊となっています。マロニエセイヨウトチノキ)の根に吐き気を憶えたのが『嘔吐』の主人公ロカンタンですが、瘤が重なるコブシの袋果を見たら、もっと自然に「実存」を感じることができたのではないかなどと妄想してしまいます。

 コブシの樹も花も申し分ない風情があるのですが、何とも形容しがたく、不規則なアモルファスのような姿をしているのがその袋果。私には見事な花をつけるコブシがなぜあんな不定の形の袋果をつけるのか腑に落ちないのです。

 コブシは春にモクレンに似た白い花を咲かせることは誰でも知っていますが、その花の後となると、忘れ去られてしまうようで、秋の袋果の方はあまり知られていません。袋果が握りこぶしのように見えることからコブシの名がついたようです。緑の袋果が初秋には色がつき出し、やがて赤みを帯びてきます。画像のように、今年も既に色づいています。秋には袋状の皮が破れ、熟した実が顔を出してきます。弾けると、中から大きめの赤い種子が糸を引いて出てきます。