白隠:追記

 島崎藤村の『破戒』に出てくる「蓮華寺」のモデルとなったのが飯山の浄土真宗本願寺派真宗寺で、境内には「破戒」の第一章を刻んだ文学碑があります。そして、『破戒』の三部には正受庵を訪ねた白隠が正受老人の厳しい指導を受け、悟りを開いた話が登場します。藤村は真宗寺の「報恩講」を取り上げ、『破戒』の第15章全部を使って、「報恩講」の場面を描いています。三部の法話は、臨済宗中興の祖と言われる白隠が高田の英厳寺から飯山の正受庵を訪ね、正受老人(道鏡恵端)の厳しい指導を受けて悟りを開いた話で、既に述べました。真宗寺住職が「報恩講」で法話として語り、その概要が小説『破戒』の中に取り入れられたのです。なお、『破戒』の中で白隠が悟った場所を記念して「静観庵」ができたとなっていますが、長野県飯山市大字静間の静観庵(静間観音堂)のことと思われます。

 なお、浄土真宗報恩講法話臨済宗の二人の話がなぜ取り上げられたのか、私にはわかりません(*)。

*「自力で道に入るといふことは、白隠のやうな人物ですら容易で無い。吾他力宗は単純ひとへに頼むのだ。信ずるのだ。導かれるのだ。凡夫の身をもつて達するのだ。呉々も自己おのれを捨てゝ、阿弥陀如来あみだによらいを頼み奉るの外は無い。」と本文にあるので、白隠でさえ自力で悟るのは容易でない、それゆえ、普通の人は唯阿弥陀如来を拝むほかない、という趣旨の法話と考えることができます。