ナズナで思い出すこと

 春の七草の一つナズナがあちこちで花をつけ出している。ナズナで思い出されるのは「モデル生物」。モデル生物の代表例は動物ではショウジョウバエ大腸菌。モデル生物は生物学、特に分子生物学で生命現象の研究で使われる生物種である。シロイヌナズナもそのモデル生物の一つで、2000年に植物としては初めて全ゲノム解読が完了した。ゲノムサイズは1.3億塩基対、遺伝子数は約2万6000個と顕花植物では最小の部類に入り、染色体は5対。ゲノムサイズが小さく、一世代が約2か月と短く、室内で容易に栽培でき、多数の種子がとれ、形質転換が容易であり、等々、シロイヌナズナはモデル生物としての利点を多くもっている。

 次に思い出されるのは「ナズナ」と「シロイヌナズナ」の名前の関係。植物名の「イヌ…」は例の「…擬き」という意味。ナズナ(ぺんぺん草)と呼ばれる白い花の植物が私たちの生活世界に存在し、そのナズナとよく似た黄色い花の別の植物が見つかり、イヌナズナ命名された(正にナズナモドキである)。イヌナズナの名前はナズナと違って、食べられないという意味。そして、そのイヌナズナに似ているが、花が白いのが見つかり、シロイヌナズナ命名された。だから、「シロイヌナズナ」はナズナの近縁だからではなく、見かけと命名が因果的につがっているからなのである。

*補足:ショウジョウバエ大腸菌と並んで有名な植物学でのモデル生物がシロイヌナズナ。かつてシロイヌナズナは役に立たないただの雑草(ぺんぺん草の仲間)。でも、色々な実験が出来る偉大なる「モデル植物」になった。シロイヌナズナゲノム解析は既に終了していて、遺伝子の働きとタンパク質が、全ての植物の中で一番詳しく調べられている。シロイヌナズナは植物の研究を行う上での代表的なモデル植物。育てるのに場所を取らない、発芽から種をつけるまでの期間が短い、ゲノムサイズが小さいなど、遺伝学的な研究での利点がたくさんある(これはショウジョウバエ大腸菌と同じ)。全世界に広がり、多くのエコタイプ(地域の環境に合わせて性質が分化し、遺伝的に固定されている型)があることから進化の研究にも使われている。

ナズナ

ナズナ

シロイヌナズナ

シロイヌナズナ