(1)と零:問題編
最後の*の内容についてB君の反応を記してみたい。B君は大きさ、サイズのない点が個々の実数に対応し、実数の区間はそのような点の集合だと考えたが、大きさのない点をどのように、どれだけ集めれば長さのある線分をつくることができるのかがわからなかった。「サイズのない物をいくら集めてもサイズは生まれない」というのがB君には否定できないように思えた。そこで、B君は解析学の基本を調べ直してみた。
実数の連続性(continuity of real numbers)は実数の集合がもつ性質である。実数の連続性は、実数の完備性 (completeness of the real numbers) とも言われる。実数の連続性と同値な命題は多数存在する。実数の公理はデデキントの公理、有界単調数列の収束定理、ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理、ラグランジュの平均値の定理、コーシーの平均値の定理、ハイネ・ボレルの定理などと同値である。
B君は次のような問題を考えて、連続的(完備的)な実数の持つ性質を確認してみた。B君は次の四つの実数の区間について、1から4までの命題が真か偽かを考えてみた。
1どんな数にもそれより大きな数がある。
2どんな数より大きな数がある。
3どんな数にもそれより小さな数がある。
4どんな数より小さな数がある。
次の4つの実数の集合について、上の4つの命題が真か偽かを考えてみよう。
A=[0,1]、B= (0,1]、C=[0,1)、D= (0,1)
なお、[0,1]={x|0≦x≦1}、(0,1]={x|0<x≦1}、[0,1)={x|0≦x<1}、(0,1)={x|0<x<1}である(開区間、閉区間)。先にB君の答えを書いておこう。各自確認してほしい。
1が真になるのは、CとD
2が真になるのは、AとB
3が真になるのは、BとD
4が真になるのは、BとD
*Aは最小と最大の実数をもち、最大の実数(=1)しかもたないのがB、最小の実数(=0)しかもたないのがC、最小と最大の実数をもたないのがDである。
この問題をさらに一般化すれば、次の4つの言明の真偽の違いを比較することができる。どの言明がどの言明を含意するかどうか、考えてみよう。
どんな人にも好きな人がいる。
どんな人にも好かれる人がいる。
どんな人にも嫌われる人がいる。
どんな人にも嫌いな人がいる。
零の記号としての点と図形(あるいは幾何学の対象)としての点を考えてみよう。零は記号としての発見の方が遥かに早く、インドでも数としての零が最初から存在していた訳ではなかった。だが、『原論』の定義の最初にあるように、点は幾何学的な対象としてまず登場する。それが記号として認識されるのはデカルト以降の解析幾何学においてであり、対象の位置を表現する記号として重要な役割を担うことになる。表示するための記号としての点と存在するものとしての点は零の二つの意味と対応しており、後に点と数との対応が明示的になる出発点となっている。まず対象として認識され、それがさらに別の対象を表示するための記号として使われた、これが点の歴史である。
ここで、零と点の違いを指摘するなら、零はまず記号として、次に数として認識されたが、点はまず図形として、次に記号として認識されたことである。つまり、何が先に発見されたかの順番が逆になっているが、零も点も同じ二つの役割をもっている点では同じである。さらに、「点は零ではない」と主張する人がいるだろうが、ユークリッドの定義から、点にはサイズがない、つまり、点のサイズは零なのである。