紫陽花小考

 アジサイ(紫陽花)はアジサイアジサイ属の落葉低木。ホンアジサイは単にアジサイとも言われ、日本原産のガクアジサイの栽培種で、花序のほとんどが装飾花からなる手毬咲き状のアジサイ。そのガクアジサイが西洋に渡り、品種改良されたのがセイヨウアジサイ。そんな様々なアジサイが湾岸地域のあちこちでうるさい程に咲いている。

 アジサイには「ガクアジサイ」と「ホンアジサイ」の二つのタイプがあり、ガクアジサイは周りに花びらのある花が一重ぐらい取り巻き、真中にぶつぶつした小さな花が集まって咲いている。一方、ホンアジサイは花が「手まり」のように集まったアジサイで、ヨーロッパで品種改良によって生まれたもの。そのためか、老人の私はガクアジサイの方が気に入っている。

 「アジサイ」という名前は「集真藍(アズサアイ)」から来ていて、本物の藍で染めたような色の花がたくさん集まって咲くという意味。また、「アズ(集まる)サイ(藍色)」からという説もあり、いずれも「集まる」と「藍」は同じである。

 ガクアジサイは日本が原産地。万葉時代には既に知られていたが、人気がなく、青い花色のせいか、江戸時代には「ユウレイバナ」と呼ばれ、嫌われていた。そのアジサイが日本から中国に渡り、ヨーロッパへ伝わり、イギリスなどで東洋の花として人気が上がり、品種改良が進んだ。「西洋アジサイ」として人気があった「ハイドランジア」は大正時代に逆輸入された。日本でアジサイの人気が出てきたのは、戦後に北鎌倉の「明月院」の庭に植えられたのが始まりとか。その頃からアジサイの人気が高まり、初夏の定番として今でも人気を集めている。

 アジサイには「装飾花(中性花、不稔花)」と「本物の花」がある。ガクアジサイの花序は周囲の大きな花が「装飾花」、中央の小さなものが「真の花」。私たちが「アジサイの花」と思っているのは「装飾花」。それはおしべやめしべが退化し、飾りで役立たない花である。花びらのように見えるのは大きくなった「萼(がく)」で、ホンアジサイはほとんどが装飾花。本物の花は外からは見えず、装飾花の裏側に隠れてしまっている。

 アジサイの花の印象を大きく決めるのは、「装飾花」といわれる萼の大きな小花。私が他の人たちと同じように愛でるアジサイの花は生物学的には「装飾花」と呼ばれる「がく」の変形。アジサイの進化的な企みにすっかり騙されているという訳だが、他の昆虫も人間と同様に騙されているのだろうか。生殖器官である花は生き物を騙す装置であり、私たちだけでなく、昆虫などの生き物を騙そうと巧妙に進化してきた。そこで今一度、私たちが見ているアジサイの花を見直してみよう。

 花には四つの異なるパーツがある。花びら、がく、めしべ、そして、おしべ。すると、アジサイの花は次のような種類に分けられる。

装飾花:一般には花びらと看做されている部分で、萼(がく)が発達したもの。

中性花:装飾花の中心に現れる蕊群。ただし機能が退化しており、実はできない(らしい)。

両性花:装飾花に囲まれた大量の粒々の部分。カタツムリの目のように伸びているのがおしべで、その付け根にめしべがあり、小さな実ができる。

 アジサイの花の中にさらに小さい花があるように見えているのが中性花で、この小さな花がアジサイの本来の花の一つで、 花びらのような周りの大きな花は実は萼である。

 今咲いているアヤメに似て、アジサイの企みはとても直接的でわかりやすいのだが、さらなる園芸種になるとそれがさらに洗練されてくる。例えば、アナベルアジサイよりずっと節度ある花姿で、多くの人を惹きつける。

 アジサイの講釈はとにかく、雨の季節にはアジサイが実に良く似合う。