トチノキ、あるいはマロニエの実

 近くの公園には大きなトチノキが三本ある。今の時期はその実を見ることができる。トチノキというと、私には「栃の実」、そして栃餅が思い浮かび、山里の昔の食べ物だと思ってしまう。とはいえ、私には栃餅を食べた記憶はなく、当然ながら栃餅の作り方も知らない。

 トチノキ属のマロニエ(西洋栃ノ木)は、16世紀にヨーロッパで街路樹として植栽することが流行し、一気に広まり、パリのシャンゼリゼ通りの並木道は世界的に有名。サルトルの『嘔吐』にもマロニエの根が登場する。一方、日本原産のトチノキの実は古代人にとって貴重な食材であり、縄文時代の遺跡からもトチの実の化石が多く発見されている。

 人と植物の関係は様々で、パリのマロニエ並木と縄文以来の栃の実がまるで異なり、重なり合うことなどないと思ってみても、実はしっかり重なり合っていて、人と植物の信じ難い程の深い絆が窺えるのである。